第14話 新たな混乱
「怪しい人物を拘束したにも関わらず死人が出るとは。一体どうなっているのだ?」
グレイエが低い声でそう言う。その表情は怒りに満ちていた。それを聞いてアリアムはロビーのほうを見た。
「僕らが拘束した人物が違ったというだけのことでしょう。もし合っていても、新たな殺人犯が出てきた可能性もありますからね」
アリアムはグレイエにさらっとそう言い、遺体のそばにしゃがみこんだ。僕はそこまでの度胸はなかったが、昨日今日と遺体を見ているからか少し慣れてしまっている気がする。よくない傾向だと自分に言い聞かせた。気がつけば僕たちの後ろにも人だかりができている。痺れを切らしたように女性の旅客ロミが叫び出した。
「もうやだ!!! 私帰ります! こんなところにずっといられない!」
「ちょっとロミ、気持ちはわかるけど馬車は明後日まで来ないわよ」
「でも私たちが死んだら意味がないもの! 歩いてでも私はここから離れるわ!」
ここから逃げ出したいと嘆いている。正直僕も同じような気持ちだった。目的は昨日のうちに果たしたのだから、もうここに長居する必要もない。
「待ちたまえ。簡単に返すわけにはいかんな」
「はあ!?」
それをグレイエが遮った。僕も聞こえた言葉を疑う。
「このホテルには昨日今日と殺人を犯した犯人がいる。そう簡単に逃しはしない。犯人が捕まるまで出て行くことは許さない」
「な、何言ってんの……私が犯人なわけないじゃない!」
「総支配人殿を拘束してもこうして死人が出ているのだ。また今夜、怪しい人物を皆で決めるとしよう」
集まった人達はみんなざわざわと騒いでいる。殺人犯と過ごさなければいけない恐怖、疑われるストレス、みんなを怪しみ続ける精神の摩耗で全員が疲れている。
その静寂を破ったのはアリアムの伸びをするような気の抜けた声だった。視線は僕とロスコさんに向いている。
「…………状況は把握できたかな。一度ロビーへ戻ろうか。僕からボアさんにお願いがあるので」
「は、はい? 僕にできることなら」
人だかりの間を縫って、彼の後に続いていく。皆僕らのことは見ずに前を向き、呆然と立ち尽くしていた。
「それで、お願いって?」
「トグアビさんとロキオズさんの説得さ」
「え?」
「おそらく犯人が捕まるまでまだかかるだろう。このホテルの滞在が長くなるほど僕らの命が危険にさらされる期間も長くなる。その危険を避けるために、まずはこのホテルについてよく知りたいと思うんだ。こういう時は地の利。フィールドについて詳しくなるに限る」
「それは、そうかもしれないけど、いったいどうやって……」
「噂止まりだが、このホテルには特別な客しか入ることのできない部屋があるらしいのだ。そこに入りたい」
「なんですって……!?」
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