第二章 第二の事件

第13話 輝き

 ノイの声には聞こえないふりをして、僕は部屋に入る。部屋には未完成のロビーの絵があった。深々とお辞儀をするゼラスも描かれている。


「…………」


 なんとなく、この絵は完成させなければいけない気がした。今描かなければ一生手つかずになる予感がする。無造作に置かれた筆を手に取り、色が塗られていない部分を塗っていく。外からの光が差し込み、反射するほど磨かれた机と床まで綺麗に描き上げ、後は仕上げを残すのみとなった。

 僕はカバンから、新聞紙に包まれた瓶を取り出した。これは両親からの手紙と共に送られてきたもので、美しい透明のインクだった。キラキラと光る粒がインクの中に浮かんでおり、絵の上から塗るときらびやかな仕上がりとなる。

 本来の使い方は別にあるのだが、僕はもらった瞬間から絵に使おうと決めていた。このような良い素材はディではなかなか手に入らない。瓶には商品名と成分が細かく書かれている。文字は読めるが、国外で購入したもののようだった。


「……?」


 それを手にして、さあ描こうというところで僕は動きを止める。


「……っ!」


 次の瞬間、僕の目は大きく見開かれていた。


ーーーーー


 翌朝。ガヤガヤと騒がしい声で目を覚ます。一階からの声のようで、僕はすぐに食堂へ向かった。食堂へ向かう途中でアリアムとロスコと出くわした。


「おはようボアさん」

「おはようございます、お二人とも。一体どうしたんですか?」

「夜中に死人が出たらしい。給仕をしていた男性だ、覚えているだろう?」

「ああ、あの気さくな男性ですね。覚えています。……え? 夜中にですか?」

「そうだよ。何か引っかかることでも?」

「僕は結構遅くまで起きていたんですが、物音一つ聞いていないので」

「そうだろうな。ボアさんの部屋から最も遠い位置で亡くなっていたからね。これから現場に向かうけど、ついてくる?」

「もちろん、ついていきます」


 二人についていき、かなりの距離を歩く。僕がこのホテルに来てから通ったことのない場所だった。


「あ……」


 立ちはだかるグレイエの先に倒れる青年の姿がある。間違いなく、昨晩夕食の場で僕たちに情報をくれた青年だった。口を大きく開け、目は見開かれた状態で倒れていた。右手は不自然に伸ばされていて、キラキラと光っている。


「手に何かついているね」

「何でしょうか?」

「金粉だ。金粉の付いた何かに触れたのだろう」

「金粉……か」

「怪しい人物を拘束したにも関わらず死人が出るとは。一体どうなっているのだ?」

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