第11話 従業員VS客

「…………」

「ご利用された方はいらっしゃらなかったかと」

「では今の全員の話を聞いて何か考えがあるものはいないか? 今話があった情報で、今宵一番疑わしい人物を割り出さなければならないぞ」

「…………」


 みんなが黙り込む。多分僕と同じ気持ちで、今の話で疑わしい人なんて誰もいないと思った。アリバイがみんなないことも事実だが、それは僕も同じことで、疑う理由には欠ける。


「はい。僕から少し。殺されたのはこのホテルで生前総支配人をお勤めされていた方ですから、動機があるのは従業員の方のほうがあり得るのではないかと思います。僕たち旅客はたまたま今日こちらに宿泊しただけなのですから」


 アリアムが発言し、一気にその場が凍り付いた。特に従業員たちの表情が固まっている。


「そんな、誰もそんな方はいません。みんないい人で優しいんですから!」


 マロメが反論するも、客たちは完全に従業員に犯人がいるモードになっている。


「こちらも言わせていただきますが、私一度廊下でノイ様を見かけております。証言では部屋にこもっていたとおっしゃっていましたが、嘘ではございませんか?」


 マロメは続けて証言をした。ノイは老人の旅客で、確かにずっと部屋に籠って書類を読んでいたと発言していた。


「あの時は、ホテルの従業員がタオルを持ってくるのに時間をかけすぎているから、ロビーまで取りに行こうとしたのだ。ほんの数分の出来事だったから省いただけだ。ロビーには誰もおらんし道中誰にも合わなかったから仕方なく部屋に戻ったが」

「ほう、なるほどな。マロメ殿、反論はありますかな」

「反論は、今のところはありません。……部屋から出たという大事な証言を省略していたことは怪しいとは思いますが、タオルが届いていないのはロキオズさんの証言から明らかで、それはこちらの不手際ではありますからね」


 確かに部屋から出る行為を話さなかったのは少し疑う要素に入ってしまう。その時に総支配人であるゼラスと出会い、何かしらの公論などが起きて、廊下に置かれた甲冑の剣を使って刺すことも出来るからだ。ここまで考えて僕は頭に疑問が浮かんだのを感じた。僕は甲冑の剣で刺されたと思っているが、実際どうだったのかが聞けていない。


「あの、一つ質問です。ゼラスさんが刺された凶器は何だったのでしょうか? それによって、突発的な犯行が行えるかどうかが判断でき、ノイさんが怪しいのか考えるかなと思いまして」


「その通りだ。凶器についても話しておかなければならない。凶器は廊下に置かれていた甲冑が持つ剣だ。あの甲冑は真剣を持っていたようだ」

「やっぱりそうなのか」

「では、犯人は殺す際に凶器を現場で調達できたのですね」


 アリアムも考えていたようで、僕の話に加わってくれる。凶器は予想通り、あの甲冑の物だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る