第12話 初めての投票

 甲冑が本物の剣を持っていたのは驚きだった。そしてそれを殺人に使われてしまったのだから洒落にならない。アリアムが手を上げてみんなの顔を見る。


「仮に突発的に殺人が起きる何かがあったとして、凶器は現場で調達できたでしょうが、甲冑が持っている剣が真剣であると知っていないとこれは成り立ちません。一目見ただけで違いが分かる人物がいるなら別ですが、皆さんどう思いますか?」


 再び全員が首を捻った。するとずっと黙っていた女性二人組の一人、エルがつぶやく。


「やっぱりさ、ホテルの人じゃない? 本物の剣かなんて今日ここに来た私達じゃわからないしってエルは思っちゃうなぁ……」


 従業員の中でまた表情を険しくした人がいたが、発言する人はいなかった。それを見てグレイエが手を叩く。


「そこまで。話過ぎるとキリがなくなるのでここで打ち切りとする。全員紙に怪しいと思しき人物の名前を書き、このボックスに入れよ。何も書かずに提出した場合はその人物も拘束する」


 全員に掌に収まるくらいの紙と、ペンが配られた。きょろきょろとあたりを見渡すと、数人は僕と同じように見渡していたが、ほとんどの人がスムーズにペンを走らせていた。僕も一応名前を書いていく。


“ノイ”


 わからない。わからないけれど、疑問に思う人物は彼しかいなかったから。やはり嘘をついていたというのは疑う要素になる。


「それでは開票していこう。誰が誰に投票したのかは伏せておく」


 グレイエはその場で票を開いていく。口ぶりから、誰がどの紙を描いているのかグレイエには分かっているようだ。


「ノイ」

 票が開かれるたびにこちらに見せている。これでグレイエが票を捜査していないことを証明するつもりなのだろう。


「ノイ、ロキオズ、ロキオズ、ノイ、マロメ、ロキオズ、ロキオズ、ロキオズ、ノイ、エル……」


 すべての票が出そろい、一票差でロキオズが最多票を集める結果となった。


「それではロキオズ殿を今夜より拘束することとする。これが皆の総意だ」

「……はい」


 諦めたような表情で、ロキオズが下を向いている。彼に投票はしなかったのもあり、胸が苦しくなった。


「最後に、ロキオズ殿から言伝はあるか? これからしばらく皆と言葉を交わせなくなるが」

「いいえ。……特に何もございません」

「そうか。では参ろう」


 彼は拘束されて、グレイエと共に連れていかれてしまう。僕たちはその背中を見つめたみんなばらばらと食堂を後にした。


「はあ、恐ろしいことが起きようとしている。ああ、恐ろしい……」


 自室への帰り道、廊下でノイと出会った。彼は呪文のように、恐ろしい恐ろしいと繰り返していた。

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