第8話 金色の名札

 そこには特徴的なデザインのスーツを纏った若い男性が立っている。緊張しているのか、目線がチラチラと多方向へ散っていた。服のデザインは総支配人が来ていたものと同じ。それを着ているのは先ほど遺体に泣き縋っていた男性で、金色の名札には、“ロキオズ”と書かれている。


「本日のお食事は如何でしたでしょうか? 僅かでも特別なひと時をお過ごしいただけていれば幸いでございます」

「あなたは……」

「本日より総支配人をお勤めいたします。ロキオズでございます。前任である我が父、ゼラス亡き今、私がこのホテルの柱となり、皆様へ快適な時間をご提供いたします」


 深々と下げられた頭に、僕とアリアムは慌てて立ち上がる。どう考えても一番大変なのは彼だ。そんな中気を張り詰めてこのように挨拶をする姿は見ていられなかった。立派なスーツを身に纏っていても、近くで見る彼はすごく若く見える。おそらく僕やアリアムと同じ歳くらいだろう。


「ロキオズさん。この度は大変でしたね。なんと申し上げたらよろしいのか」

「とんでもございません。皆様をお騒がせいたしまして、恐縮でございます」


 僕はアリアムにそっと目線を送る。彼も同じことを考えていたようで、ゆっくりと頷いてくれた。


「言葉を選ばずに言いますが、……お父様の死は、おそらく殺人です」

「えっ」


 アリアムの言葉を聞いた瞬間、分かりやすく彼は目を泳がせる。彼の思い出したくないであろう記憶を掘り起こすのは酷なことだが、僕たちは僕たちの命を守るために動かなければならない。


「我々は必ず犯人を突き止めます。ロキオズさんや他の従業員と旅客、それに我々自身の為です。ここで死ぬわけにはいきませんからね。そのためにお話をお聞かせ願えますか?」

「あ、ありがとうございます。確かにその通りですね。こんなこと、繰り返してはいけません」


 ゆっくりと息を吐いて、彼は頷いた。僕は食堂の椅子を座りやすいように下げる。


「それではこちらに。気が付いたこと、今日のことなどをお聞かせください」

「それはとてもよい考えだな」


 ロキオズを食堂に座らせた瞬間、地響きのような低い声がこだまする。食堂の入り口にはグレイエの姿があった。本当に良い考えだって思っているのか、むすっとした顔のまま、僕らの近くまで来た。


「我も混ぜていただこう。我どころか、この建物にいるすべての生者に参加いただいたほうがよい。総支配人殿、人を集めていただけるか?」

「は、はい。かしこまりました」

「きわめて殺人の線が強いからな」


 ロキオズは十分もたたないうちにすべての人を食堂に集めた。広い食堂の椅子が余らないくらいの人数が入り、僕はまじまじと皆の表情を確認する。今日ここにきてから一切顔を合わせていない人がほとんどだった。

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