第7話 気になること
「おそらくですが、見返りについてよく吟味しなければなりません。狼たちは我々が思うよりも欲深いので」
「そうなのではないかと思っていました。その見返りについても、ご令嬢に何が良いのかご相談させていただく予定でしたので」
新事業への食いつきもよい。後は当事者であるご令嬢に彼が話をしてくれるだけで完璧だ。身内から話が事前に耳に入っていれば、後は僕の両親の話術で何とかなる。
ウォーリット社の脅威は話に聞く耳を持たない人間だけなのだ。そう断言できるぐらいに僕の両親はトークスキルが高い。
「そう言うことでしたら一度聞いてみます。きっといいアドバイスがもらえるはずですから」
「ありがとうございます。大変助かります。どうかお体をお大事にとお伝えください」
「はい。お気遣いいただき嬉しいです。お力になれるところは手伝わせてください」
思ったより協力的な様子でホッと胸を撫で下ろした。田舎の貴族も何かと大変な立場にあるのだろう。都心部の企業と手を組むことに躊躇う感じはなかった。
「それではデザートといきましょうか。確かシャーベットと言っていましたよね」
「ええ。楽しみです」
その後はお互いのことについて世間話をしていた。僕が絵を描くこと、アリアムは天文学を学んでいること。そして毎年この時期になると、天の川が空に見えること。
昔から知り合っていたような感覚のまま、僕たちは会話を楽しんでいた。アリアムは貴族らしくも敬意を持って口調を崩して話してくれている。本当に楽しい食事の時間を過ごした。まるで今日の事件なんて起きなかったみたいに。
「……この話は食後にしようと思っていたのだが、総支配人が帰らぬ人となったこと、どう思うか?」
思い出していると、ちょうどアリアムが切り出してくる。やはり気にせずにはいられないよなと思う。でも会食中に話すことでもないからお互い触れないようにしていたのだろう。
彼の発言で、亡くなった男性がこのホテルの総支配人であることを知った。ますます泣き喚いていた男性の息子を不憫に思った。
「そうですね……。あのホテルマンが総支配人だとは知りませんでしたが、それを踏まえても不自然な死ではあるかと。甲冑の剣は普通に歩いているだけでは胸に刺さらないでしょうし、彼の仕事ぶりから、もし死を選んだとしても、客がホテルにいないタイミングを狙うでしょう」
「僕もそう思っていた。そうなれば、殺人であるともね」
「でも、いったい誰がそんなことを……」
アリアムも総支配人の死は他殺であると思っているらしい。しかしそうだとすると、誰が?という話になってくる。そしてその誰かは、今もこのホテルにいる可能性が高いとも思う。
「いなくなったシェフはどうだろうか」
「あり得るな」
そう話していると、コンコン、と控えめに食堂の扉が開いた。
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