第6話 ミッションは滞りなく
僕に与えられたミッションは三つ。まずは、アターセブス家の子孫の人柄を把握し、信頼に足る人物か確かめること。二つ目は僕のことを気に入らせること。そして三つめはウォーリット社の新規事業への食いつきを確認することだ。この三つを済ませて報告することで僕の仕事は終わりだった。
「あははは、ちょっと、このような場で申し訳ないが、ボアさんの話はすごく面白いんだな」
「こんなに笑ってくれるのはあなたくらいですよ、アリアムさん、僕もつられて笑いが止まりません」
これでミッション2はクリアだ。彼は完全に、僕のことを好きになっている。初めて顔を合わせた時より明らかに僕に向ける表情が違った。実は最初にテーブルに着いた時に彼の仕草を注視しており、そこで一つ目のミッションはクリア済みだった。
彼の仕草は僕とかぶっており、だいたいこういう人物であろうという見当はついている。小さいころから母に人柄の確認方法を教えてもらったのが役に立った。
次は、ミッション3だ。このままいけば、デザートが来るまでにはすべてをクリアし、世間話をする余裕すらあるだろう。彼と余計な話をしたいほど、僕も彼が気に入っていた。
「そうでした、ウォーリット社の話をしてないと話が分かりづらいですね」
「ウォーリット社の事業についてはあらかじめ学んでいましたから大変楽しいお話ですよ?」
「さすがアリアムさん。話が早い。それではウォーリット社の新事業についてももうお知りになっているのかもしれないですね」
「新事業? それは一体?」
結論、食いつきはよかった。僕の両親が現在進めている新事業は、ディ向け、つまり田舎向けの情報伝達技術の発展だった。これまで、遠いところまで書類を伝達する方法は、自分で移動する、郵便屋に依頼する、鳥を飛ばすの三種類しかなかったのだが、それを増やそうというものだった。
そしてそれを実現するには、アターセブス家のご令嬢の力が必要不可欠なのだ。彼女には狼と会話ができるという能力があった。新たに四つ目の手段として狼に伝達の言伝をし、情報を送る。狼なら素早くやってのけるに違いないと両親は目をつけているのである。
「なるほど。狼に書類をね」
「ええ。狼の群れがディには多いですから。群れて我々の脅威になるよりは従えたほうがよいという考えもありまして。もちろんそれは、狼と疎通が採れるご令嬢の同意が必要になってきますが」
「面白い考えですね。彼らのテリトリーでは狭くて運動不足によりストレスを溜めてしまう危険があると、姉も言っておりましたし。協力が得られれば、とても便利になります。――ただ、……」
「ただ?」
彼はすうっと息を吸った。
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