第5話 口下手なシェフ

「トグアビ?」

「あっ。本日のおりょうろ、お、お料理のご説明を、いたします」


 シェフは慣れていないのか、噛みながら説明をしていく。そのぎこちなさに、僕もアターセブスの二人もぽかんと口を開けた。


「も、申し訳ありません。は、初めてこのような場を、いっ、いただいたもので……」

「なるほど。大丈夫ですよ。とても美味しいですから。あまり緊張しないでください」

「あ、ありがとう、ございます……」


 たどたどしくすべての料理の説明が終わり、シェフはそそくさと去っていった。これまで見たシェフの中で一番説明が下手だな、と思いながら前菜を口にする。やはり味はすごくおいしい。


「とてもおいしいですね。」

「はい。それにしてもあのシェフ、すごくかわいかったなぁ。僕たちよりも若そうでしたが、あの若さでシェフなんてすごいんですね」


 アリアムが水を汲みに来た給仕に話を振る。彼はにこりと笑ってそれに答えた。


「ありがとうございます。シェフのトグアビはうっかりものですが、本当に料理の腕が素晴らしいのです」

「挨拶はこれから勉強するのかな?」

「初めてって言っていましたね。今日配属なんですか?」


 このようなホテルでは毎日のようにメニューの説明はしているはずなのに彼は初めてと言っていた。ということはこれまでは挨拶の必要がない場所にいたのだと思いつく。答えにくい質問だとは思ったが、気になって聞いてしまった。


「それが……。このような話、申し上げにくいのですが……。今朝になって、長年シェフを務めていた古株が失踪したのですよ。トグアビ自体はずっとここで料理人をしておりました」

「ええ! それはまた。何かあったのですか?」

「詳しくは何も。トグアビが言うには、“俺のことは忘れてくれ”と置手紙が一通だけあったようですが。」

「それは……。ただ事ではなさそうですね。」

「そうですね。ただでさえ……。ああいえ、口が過ぎました。私はこれにて」


 給仕の男性は素だと気さくな雰囲気のようで、僕たちの知りたい以上の情報をくれた。聞いた結果さらに謎は深まったわけだが、別に何も思わなかった。彼が話そうとしていた“ただでさえ”続きも見当がつく。

 おそらくホテルマンが死んでしまったことで、ホテル側は混乱しているのだろう。シェフも失踪していて、僕らに変わらず接客しているだけでもすごいことだと思う。


「いきなりシェフになったならさぞかし大変だっただろうね」

「自分だったらと思うとぞっとします」

「あはは。ボアさんなら心配はいらないでしょう?」


 話をしながら、じわりじわりと本題に近づけていく。僕に与えられたミッションは三つあった。

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