第4話 当事者不在の会合
「失礼致します」
「はい」
食堂の入り口には綺麗めなスーツに身を包んだ男性と、一歩後ろにメイド服のようなものを着た女性が立っている。男性の服の裾が右側だけ汚れているのが一瞬だけ気になったが、すぐに思考から抜ける。男性は僕の向かいの席に座った。
それはつまり、今日の僕の相手はこの男ということになる。ご令嬢と会うという、聞いていた話とは違っているけれど、とりあえず僕はそれを受け入れることにした。
「初めまして。アリアム・アターセブスです。本日はこのような場を設けていただき大変光栄です」
「こちらこそ、初めまして。ボア・ウォーリットです。本日はお会いできて嬉しいです」
軽くお辞儀をし、男女はテーブルについた。メイド服の女性は恥ずかしそうに下を向いている。
「こちらはロスコといって、僕の身の回りのお世話をしてくれています。今日は一緒に食事を取る予定です」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
彼女はぺこりと頭を下げてアリアムをちらりと見た。彼は優しく微笑んでから僕を見る。
「しかし驚きました。てっきりウォーリット夫妻がお見えになるのかと思っておりましたので」
「急に仕事が立て込んだようでして。両親の代わりに僕がお会いすることになりました。僕は二つ隣の街に住んでいるので距離も近くて」
「そうでしたか。まさか息子さんがいらっしゃったとは。ウォーリット社の未来も安泰ですね」
「あはは。そうでもありませんよ。アターセブス家の方も本日はご令嬢とお会いするお話だったはずですが、ご都合が悪くなられたのでしょうか?」
「ええ。姉は数日前から寝込んでいまして、代わりに弟である僕がここにきました。」
「なんとまあ、不思議な会になりましたね。双方当事者不在とは」
「ですね」
自己紹介を済ませていると、早速料理が運ばれてきた。前菜とスープで、色とりどりの野菜とコーンポタージュが丁寧に置かれていく。
「ではいただきましょうか。お話はこの後ゆっくりといたしましょう」
「そうですね」
僕たちは入り口のほうを見た。ちょうどシェフの格好をした男性が入ってくるところで、彼の言葉を待つ。前菜が運ばれてきたときに、シェフから今日の料理について説明があるのはこのような食事会でのマナーのひとつだ。一応社長である両親から、一通りのマナーの教育は受けている。
「…………」
なかなかシェフはしゃべりださず、僕たちが不思議そうに見つめていると、彼の隣にいた給仕の男性がシェフを肘でつついた。
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