第9話 早すぎるコスチューム

「まずはお集まりいただき感謝する。来てもらったのは、このホテルの総支配人を務めていたゼラス殿が何者かに殺害された可能性が高いため、怪しい人物をあぶりだしたいからだ」


 それを聞いた瞬間、一同ははっと息を飲む。淡々とした声でグレイエは続けた。


「ゼラス殿のご遺体はこのホテルの庭の古屋に安置しておる。リエスティ警察が到着したら検視を実施する予定だ。決して近づかれないよう。そして、話し合いの目的だが、毎晩このように集まり、怪しい人物を話し合いで決定し、決定された人物を拘束することにする。これ以上の被害をなくすためであるので、理解していただきたい」


「……拘束?」


「そうだ。怪しい人物を拘束していき、殺人が止まればその人物を警察へ渡そう。まずはロキオズ殿。貴殿の話を伺おうか。被害者の息子であり、総支配人を受け継いだ立場なら、我々よりも情報を持っているかもしれん」

「えっと……。とりあえずアリアムさんとボアさんにお話しするつもりだったことを話します。まずは、父について気が付いたことがありまして」


 全員の視線がロキオズに集まる。静まり返った食堂の空気は張り詰めていた。


「昨日の晩のことです。夜の業務が終わったときに父の自室に呼び出されました。そこで父は、今私が着ている総支配人専用のコスチュームをくれたのです。そろそろ次代の総支配人として自覚を持たなければならないからと。しかしこのコスチュームは基本、前任の総支配人が引退することが決まって初めて作られるものです。父は五十歳の時にもらったと聞いたことがありました。僕がもらうには早すぎると思ったのです。何かに急かされているようにも感じて、父の様子は普段通りではなかったと感じていました」


 本来なら引退直前に渡すコスチュームを、まだだいぶ早い時期に、しかも死ぬ前日に息子に手渡していた。確かにそれは不自然だった。まるで自分が死ぬ可能性があるかのような行動だ。そして手渡されたコスチュームは袖を通され、立派に役目をはたしている。


「なるほど。承知した。それでは、今日の行動についてお聞きしようか」


「はい。本日は夕方までロビーにおりました。といっても、私はバックヤードで父のサポートをしていたので、皆様のお目にかかったのは、父の死後ぐらいからだったかと思います。夕方にノイ様のお部屋にタオルをお持ちしようとして、一度フロントを離れました。その途中で……倒れる父を発見したのです。階段を上り、三階の廊下を歩いていた時でした。私は固まってしまい動けなかったのですが、掃除をご担当いただいているマロメさんが悲鳴をあげられて、すぐに人だかりができました。そのあとは少し取り乱しまして……。父の身体を倉庫に移動し、現場を通行止めにした後、自室に戻って着替えをしました。ちょうど、父にもらったこのコスチュームがありましたので」


 彼の発言に特段怪しい点はない、と僕は思った。みんなも同じようで、グレイエに視線が集まる。

「ご苦労だった。次は……そうだな。マロメ殿とやら」

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