第39話 公平な条件などない


 さて、ミュウたちの話しは終わったし、お客さんも退屈してそうだ。そろそろ勝負を再開しようか。俺は自然と戦闘態勢に入り、カメと鳥が警戒を深めた。そこで、シャイラから待ったがかかった。


「私たちの攻撃でレミリアおばさんの召喚獣は弱ってる。その状況で勝っても嬉しくないし、フェアじゃない気がするわ。でも私たちが故意に傷つくのは八百長とも受け取れるわね」


 この戦いの裏では何やら賭け事が行われているらしい。そうでもなきゃ、たった3人での戦いに景品なんて出せないだろうからな。


「でも、そんなのは認められないでしょ。だから解決策を用意する必要があるわ」


 そう言ってシャイラは俺を指さした。まさか俺に解決策とやらを用意しろとでもいうつもりか。


「たぶんだけど、ミュウがここまで成長したのは、異世界からやってきた小賢しい召喚獣が関係しているわ。だから、その召喚士に勝負の方法を考えてもらうわ」


「シャイラちゃんがあんなこと言ってますけど、マスター、大丈夫ですか?」


「ふっ、俺を誰だと思ってる。そんなこと、とくに思いついてるさ」


「では発表してもらいましょうか。あなたの考えた最高の勝負の方法とやらをね」


 なぜか恩恵を受ける立場のレミリアが上から目線で促してくる。ミュウからは全然感じないけど、この世界における召喚獣の立場は低いってことを実感する。だが、いいだろう。答えてやろうではないか。


「正直なところ、あなたの召喚獣が既に傷ついている以上、完全に公平な戦いは不可能だけど、それでも勝つ可能性がある方法を提示したいと思う。一番の問題は機動力を失ってしまったことだ。だから、俺たちも機動力は使わないってことでどうだろうか。具体的には、一か所に集まって、そこから動かずに攻撃しあう」


「私はそれでも構わないわ!」


 シャイラは問題ないようだ。あとはレミリアだが……


「なかなか良い条件ね。でも流石にそこまでしてもらっては私が卑怯者になってしまうわ」


 なにを今更、と思いっきりツッコミたい。だがここは我慢だ。せっかく親子の絆が取り戻されつつあるんだ。余計なことは言うまい。


「だから、ある程度の助走距離を設けることを提案します。それなら、あなたたち二人にアドバンテージがあるわ」


 レミリアが運営の方をちらりと見る。運営はサムズアップしてゴーサインを出した。


 なるほど、賭け事があるからこの条件でいいのか確かめているようだな。運営としては、戦いは盛り上げたいけど、誰かを贔屓するわけにはいかないってことだ。恐らく俺の条件のままだと、賭けた人たちから反発が来ると思ったんだろう。そこで修正を加えたってところか。


「これで問題ないわね?」


「大丈夫よ」


 シャイラに続いて俺も答える。


「ああ、問題ない」


召喚獣あなたには聞いてないわ。ミュウ、あなたはどうなの!?」


「問題ないよ!」


 せ、世知辛い世界だぜ。だが勝負は俺たちが勝たせてもらう。


 俺たち召喚獣は、一度真ん中に集まり、そこから背中を向けて前に進んで立ち止まった。合図を聞いたら振り返り、先ほどのポイントに向かって拳をぶつけ合い、勝敗をつける。最後まで立っていたヤツの勝利だ。


「マスター、今までありがとうございました」


「どうした急に?」


「いえ、なんとなく、お礼が言いたくなっただけです。マスターのおかげで私はこんなに逞しくなれたんだなって思って。お父さんのこととか、全然気にならなくなったのもマスターのおかげです」


「……そうだな。確かにミュウは強くなったよ。でも勝負ってのは勝つと負けるじゃ大違いだ。それは分かってるな?」


「はい!」


 いい返事だ。さあ、ミュウの成長を見せてもらおうか!

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