第38話 その覚悟があるのか


 レミリアさんの話は続く。周りに人がいる状況で、よくもまあ堂々と話せるものだ。


「私は村に戻った時、あの人のことも調べたわ。でも駄目だった。あの人は変わっていなかった! だから諦めるしかなかったのよ! ……気がかりはミュウ、あなたのことだけだった。その後は、あなたの召喚獣が言った通りよ」


「お母さん……」


 なるほどな。レミリアは別にミュウのことが嫌いになったわけじゃないもんな。でもレミリアの言葉は何かおかしい。よく考えろ。ここが大事なところだぞ。俺が召喚されたのはきっとこの時のためなんだ。


 ……そうか。そういうことだったのか。すべての元凶が分かったぞ。


「レミリアさん。あなたは今、変わっていなかったと言った。一体なにが変わっていなかったんだ?」


「そ、それは……」


 レミリアは言い淀んでいる。口にするのもおぞましいってか。


「マスター、どういうことですか? 分かったなら一人で納得してないで教えてください」


「俺たちは勘違いしてたんだ。ミュウの父親はレミリアさんに出て行かれたショックでおかしくなったと思っていた。だが実際は逆だったんだ。そうでしょう、レミリアさん?」


 レミリアが下を向き、やがて観念したかのように語り出す。


「そうよ。あの人は元々そういうプレイが好きだったのよ。私はそれを知らずにお見合いをして、結婚してしまった! 私は被害者なのよ!」


 つまり、ミュウの父親は最初から重度のマザコンで、母親と赤ちゃんプレイを楽しんでいたのだろう。だがレミリアと結婚するときはその事実を隠していたんだ。


「結婚してから何年かは大丈夫だったのよ。子供ができて、彼も自制してたんでしょう。でもミュウが大きくなるにつれ。あの人は本性を現してきた。私は嫌だったけど、ミュウのために我慢しなくちゃいけない。そう思って耐えていたわ。でも、あの人の要求はどんどんエスカレートしていった」


「お母さん……」


「おばさん……」


 ミュウだけじゃなく、シャイラもその境遇に同情している。レミリアは苦しかったことだろう。無理やり赤ちゃんプレイを強制されて。心がむしばまれていったんだろう。


 確かに同情すべき点は大いにある。でもそのせいで、ミュウは同じ境遇に置かれてしまった。


「だから別の男と浮気したのか……」


「そうよ! それがいけないっていうの!?」


 レミリアは感情的になっている。恐らく彼女は今までもこうやってピンチを凌いで来たのだろう。俺が理路整然と話しても感情を優先させてくるはずだ。ならば、こちらがとる手段も決まっている。感情には感情をぶつけるのみだ。


「だったら! だったらどうしてミュウを一緒に連れて行ってやらなかったんだ! そうすればミュウが苦しむことなんてなかったのに!」


「マスター……」


 ミュウが近づいて来て、俺の背中をさすってきた。どうやら俺のウソ泣きに気づいていないようだ。


 レミリアは膝から崩れ落ち、手で顔面を覆った。指の隙間から涙が零れ落ちている。


「ううぅ。ごめんなさい、ミュウ。私のせいであなたにまで辛い思いをさせてしまって……」


「ううん、もういいの。お母さんもすごく辛かったんだよね。私のために我慢してたんだよね」


「ミュウ……」


「お母さん。マスター。私、決めたよ」


「何をだ?」


「うん。もうお父さんのことは、もういいかなって」


 そうか。その結論に至ったか。恐らくミュウの気持ちは少しづつ離れていたんだろう。俺と旅することで世界が広がり、拍車がかかったということか。ならば俺からミュウに言うことはない。


 ミュウの父親は覚悟しておかなければいけなかったんだ。赤ちゃんプレイはそれだけリスクがあるっていうことを。もしかしたら、それだけ魅力的なことなのかもしれないな。

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