第25話 嘘にはできる
俺たちはチョコリーナを倒した。不屈パンチを当てるまでもなく、俺の拳の衝撃波だけで倒してしまった。
「俺の攻撃が当たる前、この人は魔法を発動できたと思う。当たるかどうかは分からないけど、カウンターを狙えたはずだ。可能性はあった。でもそうしなかった……」
「ひょっとしたら、自分の罪を認めて受け入れたのかもしれないですね」
ミュウの意見にチックは不服そうだ。こんな時までツンデレを発揮するか。どうやらファッションでツンデレしてるわけじゃなさそうだな。
「どうだかね。情状酌量を狙って自首に切り替えたのかも。……でももしかしたら、万が一にだけど、そうだったら嬉しい……かな」
「……うん、そうだね」
「急ごう。まだ目的は達成してないんだ。さっさと金目の物をもらっちまおうぜ」
「そんな盗賊みたいな言い方……あっ、このイヤリング」
「どうした。高く売れそうなのか?」
「ううん、売れないよ。だってこれ、お父さんがお母さんにプレゼントしたっていう安物だもん。でも今も身に着けてたなんて……。これは持っていけないわ」
「いいえ、受け取ってちょうだい……」
「お母さん……」
チョコリーナが目を覚ましてチックの手を包み込んだ。なんだか憑き物が落ちたように見える。
「こんな物があるから未練がましくなっちゃうのよ。だからこれはあの人に返して。あの人も前に踏み出せないでしょうから……」
チョコリーナがイヤリングを外していく。このプロセスは彼女が次に進むために必要なんだろう。ところがチックはイヤリングを受け取ろうとしなかった。
「今更こんなもの渡されたって困るよ。だってお父さん、もういい人見つけてるもん」
「なっ……嘘でしょ」
「本当だよ。相手に迷惑が掛からないように病気が治るまでは結婚するつもりはないみたいだけどね。相手の人もそんなに余裕があるわけじゃないのに、お父さんに内緒で私たちを援助してくれる素敵な人よ」
チックの告白にチョコリーナは固まっていた。チックの父親はとっくに前に踏み出していた。そりゃショックを受けるだろう。引き摺ってたのは自分だけだったというわけだ。
俺は、やけに静かになったチョコリーナからイヤリングと養育費を受け取ることにした。チック家族の生活のために色々と売れそうなものを選んだ。
その後、兵士がやってきてチョコリーナは関所崩壊の罪で連行されることになった。両脇を兵士に掴まれて丘を降りていく。
「ちょっと待ってください」
チョコリーナが後ろを振り返る。何も言わずに、ただチックの顔を見ているだけだった。次に二人が会う時はチックは大人になっているだろう。言葉を交わさなかったのは親子関係を兵士に知られたらチックがどうなるか分からないから。最後にチックの顔を見ておきたかったってところか。
チョコリーナはチックから視線をずらしてミュウを見た。
「あなた……辛いでしょうけど、頑張りなさいね」
「……いえ、放っておいてください。できれば忘れてください」
チョコリーナはミュウのことを心配しているようだが、おしゃべり好きな女性のことだ、きっと牢獄で囚人たちに面白おかしく吹聴することだろう。残念ながら俺にそれを防ぐ術はない。
だがそれを嘘にすることはできる。ミュウの母親に手伝ってもらい、ミュウの父親を社会復帰させる。それさえできればいいのだ。
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