第23話 養育費をゲットせよ
チックとミュウに事情を説明し、俺たちは丘を登っていた。
「まさかこんなことになってるだなんて……」
兵士に囲まれている母親を想ってか、チックが嘆く。ミュウがそれをフォローする。
「ひょっとして自暴自棄になってるのかな?」
「……たぶん違うと思う。お母さんはこんなことで絶対に諦めない。隙をついて逃げ出そうとしているはずよ。まだ火が強いから関所にいるとは思うけどね」
娘にこうまで言われるとは。チックは母親のことをよく見てたんだな。しっかり者に育ったのは反面教師か。
「お母さんは私と同じ魔法使いよ。きっと私たちを妨害してくる。でも召喚士と召喚獣がいれば大丈夫。お願い、私を手伝って! 絶対養育費を回収したいの!」
ミュウと頷き合う。
「もちろんだ」
移動中に情報を確認しておく。
魔法使いは強力な攻撃を遠距離から放てるのが特徴だ。一方で詠唱に時間がかかるため近接戦闘に弱い。チックの魔法の腕は母親ほどではないらしく、魔法の差し合いで勝つのは難しい。だが俺たちがいれば大丈夫だ。
召喚士の補助魔法を受けた召喚獣の身体能力なら距離を一気に潰せる。魔法使いにとって召喚獣は天敵なんだ。
「気をつけろ! 何かが飛んでくるぞ!」
正面から突風と、それにのった小石が飛んできた。すんでのところでチックが防御魔法を発動する。
「助かったぜ、チック」
「お母さん……」
チックの視線を追うと、丘の上に人影が見えた。どうやら今のはチョコリーナの風魔法だったようだな。
「あなたは……チュクリーナ! 何故ここに!?」
「それはこっちのセリフだよ。どうして、どうして犯罪までして……こんなことになってるのよ!」
チョコリーナに焦りの色が見える。おそらく俺たちが関所崩壊の犯人を捕まえにきたと理解しているのだろう。チックのことも説得役で連れてこられたとでも思ってるのかもしれない。
「そ、それは……私にはお金が必要だからよ。あなたたちに養育費を払うためなのよ」
「え? 本当なの、お母さん?」
「チック、騙されるな! 今までだって払ってこなかっただろう!? これからも払うわけがない!」
「で、でも……」
チックはなんだかんだ言っても母親を信じたいのかもしれない。自分ではもう大丈夫だと思っていても、まだ子供の心なんだ。母親を信じたいんだ。当たり前だよな。だが俺は許さん。実際に養育費が支払われるまでは許さんぞ。
「あなたたちには申し訳ないと思ってる。償うためにお金を貯めていたのよ。ここで働いていたのよ。働いて養育費を払おうと思ってたのよ。一括で! 本当よ。信じて、チュクリーナ!」
ま、まずい!
チックが精神的にダメージを受けている。本当は勝手に関所の通行料を上げて懐にしまうような酷い母親なのに、優しい母親の仮面をかぶってるせいで混乱しているんだ。このままだと防御魔法が機能しなくて、遠距離から一方的に攻撃されてしまう。なんとかチックのメンタルを取り戻さないと。
だが今の状態だと中途半端なことを言っても逆効果だ。母親のことを理解できる決定的な何かないと……そうか!
「チック、見ろ。母親の胸の輝きを! あんな高そうなアクセサリを買えるんだ。それなら養育費だって支払えるはずだろ」
「はっ!? 確かにそうかも……」
ところがチョコリーナに動じた様子はない。むしろ余裕が窺える。
「これは関所の同僚が勝手に
いや、残した娘が大事なら換金しろよ。でも、こんなこと口に出せるはずがない。これを聞いたチックが自分は大事にされていないと傷つくからな。養育費を払っていないから今更なんだが、それでも傷を深くしたくはない。
それにあんな自信満々に言われたら、俺だって本当だと思ってしまうかもしれん。チックなんて頭が混乱して動けなくなっているぞ。
「マスター、今こそ必殺技をだす時なんじゃないですか?」
「駄目だ。まだ距離がある。もっと近寄らないと」
ミュウがチックを心配そうに見つめる。
「でもこれ以上マスターとあの人の会話を聞いてたらチュクリーナちゃんの心が壊れちゃいます。行きましょう、マスター」
俺より先にミュウが覚悟を決めるとはな。ったく、情けないマスターだぜ。だがその通りだ。
「いくぞ、ミュウ!」
「はい! 行ってください、マスター!」
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