第22話 作戦は成り行き任せで
俺たちはチックの母親がいる関所へ向かっている。チックも行商から詳しい話を聞けたわけではなく、状況を確認するためには関所に向かうしかない。危険な状況になりつつあるのを、俺たちはもひりひりと感じとっていた。
チックはなんだかんだいって母親が心配なんだろう。養育費の請求など忘れている必死な形相に見える。
小高い丘が見えてきた。煙が立ち込めている。火事でも起きているのかもしれない。
丘のふもとには鎧を装着した兵士らしき人たちが沢山いて、中には傷ついている兵士もいる。火傷ではなく、何かに切り付けられたような傷跡だ。俺たちが丘に登ろうとすると、偉そうな兵士に止められた。俺はチックをミュウに任せて事情を聴くことにした。母親がここにいて、もし残酷なことになっていたとしたら、聞かせちゃいけないから。
「なにが起こってるんですか?」
「この関所の管理者は好き勝手やっててな。辺境なのをいいことに勝手に通行料金をあげたり着服したりと色々な。我々は彼女を捉えようとしたんだが、逆上して火を放ち、立てこもってしまったんだ」
なんだか嫌な予感がする。こっちの世界に来てから俺の勘は当たるんだ。
「その管理者って、もしかしてチョコリーナって人ですか?」
「そうだが、旅人のお前がどうして……」
しまったぁ!!
声に出すつもりじゃなかったのに。これじゃあわざわざチュクリーナを後ろに下がらせた意味がない。
チョコリーナは、チュクリーナの母親の名前だ。放火の犯人だとしたら、そんな名前を出したら怪しまれるに決まってる。俺の馬鹿!
……そう思っていたが、兵士の反応は俺の想像とだいぶ違う。何やら考え込んでいる。後ろの兵士に目配せしてから、俺に笑顔を向けてきた。
「ひょっとして、あなたたちが応援をお願いしていた召喚士たちですか? 要請からだいぶ時間が経っていたのでもう来ないと思ってたんですが、来てくれたなら問題ありません。なるほど、それなら犯人の名前を知っていてもおかしくないですね」
兵士は勝手に納得して話を進めている。こいつら勘違いしてやがる。
くっくっくっ、なんてこった。ミスが裏返ってしまったぞ。このままテキトーに話を合わせれば、関所に向かっても大丈夫なはずだ。逮捕前にチックと母親を対面させることができるかもしれん。
「あぁ、そういや何かの依頼を受けた気がするなぁ。依頼書を紛失してしまって確認できないけど、ここだったような気がするなぁ」
「なるほど、そういうことでしたか。それなら仕方がありませんな。ははは。しかし魔法使いも連れてきてくださるとは。これなら無事に捕らえられそうです」
「ではそろそろ向かいますね」
チックに良い報告ができる。そう思って踵を返すと、後ろからクスクスと笑い声が聞こえてきた。気づかれないように振り向く。
なんだか兵士二人は俺を見て、してやったりと、にやけているように見える。
……ハッ!?
奴らはまさか俺が偽者だと気づいてたというのか。俺たちが関所に向かいたいのを察して、事件を解決させようとしているのか!?
兵士の話しぶりからすると、来るはずだった召喚士が来ていないってことだ。そうなると、包囲してるだけで彼らは事件が解決できないということ。逃げられる可能性もある。そしたら彼らの責任問題になる。どうしたもんかと悩んでいたはず。そこに俺たちの登場だ。
成功すれば良し。失敗したとしても部外者の俺たちに責任を擦り付けることが可能だ。罪なき旅人に対してこのような非道……卑劣な奴らめ!
それなら俺たちも好き勝手にやってやる。チックの母親の財産が回収される前に養育費は確保させてもらうぞ!
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