第21話 ちょっと遠回り


 俺たちはチュクリーナとトゥルンまで旅することにした。今は少し進んだところにある休憩所で休んでいる。俺はミュウを誘って二人だけで話すことにした。


「どうしたんですか?」


「うん。ちょっとこれからのことについて話そうと思ってな」


「あの子のことですか? やっぱり同行するのに反対なんですか?」


「そうじゃなくて、俺たちのことだ。というかミュウのことだ。ミュウ。自分でも分かってるんだろ?」


 ミュウが驚いた表情で俺を見る。


「やっぱり分かっちゃいますか。流石はマスターですね」


 「落ち込んでたのを誤魔化していたつもりなんだろうが、俺にはバレバレだ。なにせ補助魔法バフの効きが悪くなって滅茶苦茶疲れてるからな」


「ご、ごめんなさい。私のせいで」


「いや、それはいいんだ。山道きつかったけど。でもチュクリーナに心を揺さぶられてしまったのは問題だぞ」


「……はい。私の心が弱いからです」


「俺が戦闘不能になるだけなら構わない。でも俺がいなくなったらミュウは自分の身を守れなくなるだろ。それは絶対ダメだ」


「それは分かります。でもいきなりメンタル強くなるなら苦労しません。私にできると思ってるんですか?」


「思ってない。だから作戦がある」


「なんでですか!? 私のことを信じるべきですよ。たとえ他の誰が信じなくても私を信じるべきです。私のマスターなんですから! 私は信じてませんけどね!」


 なんかミュウさん、逆切れしてるじゃん。自分で言ってて傷ついてるのかな。でも、それって自分でも変わりたいって思ってるからだよな。これなら大丈夫な気がする。


「信じてるよ。俺はどんな時でもミュウを信じてる。だからミュウも俺を信じてほしい。具体的には、戦闘中に俺は厳しいことを言うと思うけど、それは信頼の裏返しだと思って欲しい」


「えっ?」


「必殺技だ。俺はさっき必殺技を編み出したんだ」


「いつの間に!? さすがは私のマスターです!」


「いまさっきな。だけどまだ最後のピースが足りないんだ。必殺技を完成させるにはミュウの力が必要なんだ」


「それで私の力が……厳しいことって、具体的にはどんな感じなんですか?」


「今は言えない。知ったら効果が半減するかもしれないからな。相当キツイとだけ言っておく。この必殺技は怒りをパワーに変えるものだ。怒りは長持ちしないが、瞬間的に爆発的なパワーを生み出す。今みたいに落ち込んでいたとしても、一瞬で燃え上がるはずだ。そのパワーを利用して相手を攻撃する。この攻撃なら誰であろうと倒せる自信が、俺にはある」


「テキトーに言ってそうなのに凄い自信……。でも分かりました。マスターを信じます。だから聞きません。でも名前くらいは教えてくださいよ」


「……いいだろう。その名も不屈パンチだ!」


「不屈パンチ……。かっこいい。それによく分からないけど、なんか凄そう」


 人はモラハラを受けると反発する。正しいことを指摘されても、必ずしも受け入れられるわけじゃないんだ。正論には反発心が生まれる。相手の正論を耐え忍び、その反発力を利用する。それが不屈パンチだ。


 この必殺技はチュクリーナに完敗したミュウを見て編み出した技だ。恐らくこの技が完成していれば、さっきの戦闘かいわでだって立ち上がれたはずだ。


 俺たちは内緒話を終えて、チュクリーナのところに戻った。すると、焦った表情をしたチュクリーナが駆け寄ってきた。


「大変よ!」


「どうしたチック?」


「なによ、それは!」


「しばらく一緒にいるわけだからな。ニックネームくらいあった方がいいだろ」


 「……まあいいわ。そんなことより大変なの。今さっき行商に聞いたんだけど、私のお母さんと同じ名前の人がこの先の関所にいると分かったの!」


「そうなのか。とりあえずは良かったな」


 それなのにチックの表情は暗い。朗報ではないようだな。


「でも関所は不穏な空気になってて、行商たちも引き返してきたって。……お願い。 一緒に来て」


 関所に向かうとトゥルンには遠回りになる。ミュウが心配そうにチックを見つめ、俺に視線を移した。


 おいおい、ミュウは俺を侮ってるのかな。俺を信じろって言ったばかりじゃねえか。


「もちろんだ。すぐに向かうぞ」

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