第12話 これから生きる社会


「でも待ってください。やっぱり、おかしいですよ。いつものヤシュケーさんたちの強さじゃありませんでした」


「そこに気づくとは流石だな。ミュウ、どこが違ったか言ってみろ」


「はい。なんだか補助魔法バフの効きがいつもより悪いと思いました」


「その通りだ」


 確かに初日に戦ったときと比べて動きが鈍かったとは感じてたけど、俺の能力が上がったせいかと思ってた。でも実際に能力が落ちていたとはな。


「実はな。俺とダムダムはそこまで信頼関係がないんだよ」


「……え、それはどうしてなんですか?」


「それは俺の……俺のせいなんだ」


 なんか思ったより深刻な話になりそうだぞ。部外者の俺としては立ち去りたいがそうはいかないよな。


「どういうことですか?」


「この村は小さな村だ。門番の給料なんて雀の涙だ。俺の給料が低くてダムダムに満足に肉をあげられないんだよ。肉が買えなくて、一日一食になって、ダムダムとの信頼関係が現在進行形で崩壊してるんだ! 昨日は食事の直後だから勝てただけなんだよ……」


 結構切実な理由からだった。そりゃご飯は大事だからな。


 ミュウが心配そうな表情で俺を見る。いや、そんな生肉いりますか? みたいな目で見られても困る。くれるんなら、別のモノで頼みます。


 俺たちはヤシュケーさんと別れるとミュウの自宅に戻った。そこで俺は出発の準備を手伝いながら、ミュウに質問することにした。


「そういえばミュウが働いてるとこ見たことないな。それなのに食料は十分ある。どうやって暮らしてるんだ?」


「村の近くの町に大農園があるんです。収穫期になると、皆で出稼ぎに行くんですよ。ヤシュケーさんたちと一緒に。この村は毎年そこで現金を貯めて冬を越す準備をするんです」


「なるほどな。でもそれだったら、ヤシュケーさんだって生活に困らないはずだ。あ、やっぱりケルベロスの食費が負担になってるのかな」


「いえ、違うと思います。普通にお給金が少ないだけじゃないかと」


「それにしてはミュウの荷物には沢山干し肉があるけど?」


「私は皆とは違うお仕事してますから。大農園にはこの村以外からも沢山の人が集まるんです。そうすると、その人たちがご飯を食べる場所も沢山必要ですよね。だから私はそういった食堂で給仕として働いてるんですよ」


 ミュウの表情が自信に満ちたものになっていく。


「私ってほら、若いし、顔もいいじゃないですか。だから私目当てのお客さんもいて、色んな食堂が誘ってくれるんです。その中で一番条件のいい仕事を選んでるので皆より貯金できるんです」


「ルッキズム!」


 清々すがすがしいほどルッキズム!!

 なんという格差社会!!


 ヤシュケーさん……俺はなんだか切ないぜ。

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