第11話 出発の権利を手に入れるぞ


 夕食を終えて俺たちはそのまま就寝し、翌朝再びヤシュケーさんに戦いを申し込んだ。大丈夫。今回はちゃんと作戦を立ててきた。


 重要なのは先手をとること。あらかじめ作戦を決めていたとしても、ミュウが焦ってパニックになれば勝ち目は薄い。ケルベロスに勝てればミュウも自信がつくだろうし、まずは先手で必勝だ。


 それに俺にも秘策がある。といっても大したことじゃないけどな。昨日の俺は馬鹿だった。犬サイズとはいえケルベロス相手に素手で挑むなんて。だから俺は武器を用意した。その辺に捨ててあった木材を加工して木剣にしたんだ。


「相手は何も持ってないのに、ちょっとズルくないですか?」


 ミュウさん、ちょっと繊細せんさい過ぎやしませんか?


「なにを言う。相手は立派な牙と爪を持つケルベロスだぞ。立派な武器じゃないか。それに対して人間の武器はなんだ。それは知恵だ。知恵で導き出したのが武器だ。だから木剣を持ってても決してズルくなんてないのだ」


「さすが、マスター! なんとなくそんな気がしてきました」


 そうだろうとも。よし、ミュウもリラックスできてるみたいだし、今日は絶対勝つぞ。


「よし、いけ。ダムダム。首を噛み切れ!」


 しまった。話してるうちに先手を取られた。ケルベロスが正面から走ってくる。でもまだ距離は十分にある。落ち着いて指示を出せばいい。昨日練習したとおりにな。


「ミュウ!」


「はい、マスター! ケルベロスを殴ってください!」


「おおっ! ……って、ふざけんなよ!! なんで武器を手放さなきゃならんのだぁ!!」


「ごめんなさーい!」


 だ、駄目だ。拒否したいのに指から力が抜けていく。昨日、色々話しこんでミュウと信頼関係を築いたせいなのか。こうなったら無駄に逆らうよりも手放した方がいい。


 ケルベロスの鋭い牙が俺の首に向かってくる。次の指示を待って武器を拾い直す時間なんてない。一か八か、やるっきゃない。ケルベロスの跳躍にタイミングを合わせて右拳を振るう。このままだと、ケルベロスの大きく開いた口と俺の拳が衝突する。勝てるか?


 そう思ったが、俺の拳はケルベロスの牙を破壊して、そのまま顔面に大怪我を負わせた。


「戻れ、ダムダム!」


 ヤシュケーさんがそう叫ぶと、スターボールの中にケルベロスが吸収されていった。俺たちの勝利だ。


 俺は後ろを振り向いてミュウに駆け寄った。勝利の喜びを共有するためにハイタッチをする。……するはずだった。


 ところが、ミュウは俺の右腕を両手でつかんで、合気道のように俺の体を地面に転がした。ミュウはすぐに、しまった、みたいな表情になる。


「……その、さっきまで右手に涎とか血液がついてたと思うと気持ち悪くて……」


 そういえば、いつの間にか右手から血液が消えてるな。たしかに俺の拳は赤く染まっていたはずなのに。ひょっとしてスターボールに入るときに一緒に吸収されてしまったんだろうか。


 ……そうか、そうじゃないと何度でも再生する召喚獣の肉体を利用できてしまうからな。そしたらもっと召喚士の地位とか高そうだ。でも今の感じだとそういう利用方法はできないんだろう。


「よくやった、ミュウ。これなら村の外に出ても大丈夫だ。それだけ強い召喚獣がいればモンスターが襲ってくることはないだろう。奴らは敏感に強さを感じ取ってくるからな」


 ヤシュケーさんが俺たちに近寄りながらミュウを褒めている。ミュウの眼から、涙が零れ落ちている。なんだか俺も嬉しい気持ちになる。


「今までありがとうございました」


 きっと先輩召喚士としてヤシュケーさんはミュウを支えてくれてたんだろう。俺も感謝を伝えよう。


「ありがとうございました」


 俺が礼を言うと、ヤシュケーさんの眼が見開いて俺を凝視する。


「君は……君はミュウの召喚獣だろ? どうして俺の言葉が理解できるんだ?」


「いや、俺は人間だから。普通に人間だから言葉は分かるんですよ」


 ヤシュケーさんはおでこをぽんと叩いて破顔する。


「なんてこった。どうりで作戦がばれていると思ったよ。こりゃあ一本取られたな。はははは」


 はははは、じゃねえよ。ばれてると思ったら変更しろよ。そんなんで門番が務まるのかよ。他人事ながらに、ちょっと心配になってきたぞ。

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美少女に異世界召喚されました。えっ?召喚獣なのに俺がマスターでいいんすか? 犬猫パンダマン @yama2020

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