第10話 阿吽の呼吸でいこう


 ミュウと色々と試して、召喚士と召喚獣の関係が少しづつ分かってきた。召喚獣は召喚士に指示されると力が能力が増す。指示の内容が具体的であればあるほど、補助魔法バフの効果が上がるんだ。


 一番悪いのは何も指示を出さないことだ。デキトーな指示でもそれなりの効果を確認できた以上、アクシデントにびびって無言なのはもったいないんだ。


「だから、あらかじめ定型文を決めておいて、俺の指示がない時でも、指示を出してほしいんだ。村を出発したらモンスターもいるだろう。突然襲われた時に、俺が指示を出す時間がないかもしれん。それだと困る。だから、そういう時でも対応できるようにしておきたいんだ」


「分かりました。マスター。それで具体的にどういえばいいんですか?」


「できればミュウが普段から使ってる言葉がいいな。その方が自然に出てくるだろうし」


「うーん。それじゃあ、殺せ! とかですかね?」


「物騒すぎだろ! なんだよ、その指示は! なんでそんな言葉が自然に出てくるんだよ! 恐いなぁ、もう」


 というか、そんな殺意ありありな指示を出されても俺が反射的に拒否しちゃいそうだ。そうなったら能力が上がらなくて逆にマズい。


 どうやらこの世界は俺が思ってる以上に殺伐としているようだ。元の世界も俺が知らないだけかもしれないが。とにかく修正が必要だ。


「……そうだな。シンプルに、戦え、っていうのはどうだ? 他には、逃げろ、とか」


「いいんじゃないですかー」


「だよな! 余裕がある時は、殴れとか、蹴れとか、具体的に言ってくれよ。それで威力が上がるはずだからな」


「うわぁ、凄い。嫌味が通じてない!」


 通じてる! 通じてるよ。投げやりなのは伝わってるよ。わざと無視してるんだよ。俺の包容力と寛容さを最大限活用して。どうせ自分の提案は秒で却下したくせに、とか思ってるんだろう。


「……しかし、いちいち指示を繰り返すのは面倒だな。タイムラグが生じるから、ぎりぎりの戦いになったら危ない気がするし」


「え? 今更ですよね。分かってて提案したんですよね?」


 その通りなんだけど、将来的なヴィジョンがなんとなく浮かんできてたんだよ。うん。なんだか輪郭がはっきりしてきたぞ。いきなり思いつくなんて俺は天才かもしれない。この方法ならやれるぞ。


「もちろんだ。けど、この方法の先に未来がありそうだなって思って」


「その顔……ひょっとしてマスター、なにか思いついたんじゃないですか?」


「分かるか、ミュウくん」


「ええ。ちょっと顔がうざい感じですから」


 なかなか言うじゃないか。是非ともその攻める感じを戦闘中にも出してほしいものだ。


「ふっ、そんな軽口がきけるのも俺の素晴らしい提案を聞くまでだぞ。自然と尊敬の気持ちが浮かんでくるだろうからな」


「それは楽しみです、マスター」


「まず、ミュウが自分の頭の中で想像上の俺を作り上げるんだ。最初は無理だろうが、一緒に行動するうちにできるようになるはず。「あっ、きっとマスターならこう指示してくるわ」って具合にな。そしたらミュウは、想像上の俺の指示に従って声に出すんだ。それならタイムラグがないし、アイコンタクトも必要ない。言葉に出して作戦がばれる心配もない。どうだ。完璧な作戦だろう?」


 ミュウは椅子に座ったまま、椅子を後ろに引いた。俺とちょっとだけ離れた。それと同じだけ心も遠ざかったように感じた。


「そんな……そんな熟練の夫婦みたいな関係性を望まれても困るんですけど……」


 嫌がってる!

 感情が爆発した感じじゃなくて、滅茶苦茶目を逸らして、しみじみ嫌がってるぞ!


 くっ、なんてこった。確かにミュウは十代で、俺も二十代になったばかり。流石に難易度が高すぎたか。

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