第2話 違和感・痛覚

 耳を澄ますと、足音が下から階段を上ってきていることが分かる。

 全身に鳥肌が湧きたつほど、嫌な予感がした。

 足音は一段、一段、確かめるようにして階段を上がってくる。そうして上がりきる一段前の緩くなった木材箇所を二度踏み、床が軋んだ音が響く。暗闇の中、電気もつけずに歩いているために足を揃えて上がってきているのだろうか。


《お母さんじゃない》


 もう何年もこの家で生活している人間が、段差の一つとってこんな慎重な行動をするはずがない。それに、この気配を殺したがっているような足音からして、とてもアルコール中毒者の行動とは思えない。


 足音が階段を上りきると、そこからぷつりと気配が消えた。


 そうしてしばらく…………隣の部屋の扉が開いた。

 古くから物置部屋として使われていた一室だ。人が隠れられるような場所も、または強盗が盗みたがるような金目の物も一切無い。


 二階には物置小屋と私の部屋しかない。

 となると、次にやって来るとしたらこの場所しかありえない。


 息を呑みながら、私はドアを凝視した。

 今から小走りで駆け寄り、ドアに体重をかけて現実に抗うだけの勇気なんてのは生憎持ち合わせていない。足は極度の緊張と恐怖の影響からか全く動かない。まるで顕微鏡のピントを合わせるかのように、私の意識はドアノブへと注がれる。

 ガラガラッ、と背後から物音がした。

 あっ、と思ったのもつかの間、腹部を強烈な違和感が襲う。


《うっそ、でしょ?》


 目線を落とすと、棒状の突起物が私の身体から制服を突き破って飛び出していた。窓から侵入してきた殺人鬼がアイスピックか何かで襲ってきたに違いない。

 それを見たのがいけなかった。

 ただの違和感が感じたことのない痛みへと変換された途端、私は声にならない悲鳴をこぼした。

 グロテスクな音を立てて腹部から凶器が引き抜かれると、立っていることすらできなくなって前かがみで床に倒れる。


「――うっ、ぐ⁉」


 残忍な殺人鬼がうつ伏せの私に馬乗りになると、今度は腰付近に何かが突き刺さった。そして抜かれ、今度は肩付近。そして次は右胸付近。首。

 身体から顔の方へと流れてきた血液が、目から零れた涙と混じり桜色になる。


《はやく、殺して》


 強く懇願しながら、突起物は私の頭を貫いた。

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