逃走力

 人は逃げる生き物である。と思うのだがどうだろうか。正々堂々いろんな困難に打ち勝ってきた人は今後もそういうふうに生きていけば安泰なのだから、こんな文章は読まなくてもいいと思う。さて、海外に来てみて一番思うこと第一位は「ちゃんと言語学習しておけばよかった」という後悔ではないだろうか。私もその一人である。軽く見ているわけではないが、やはり言語の壁は重い。いろんな YouTuber がいろんな学習方法を薦めるが、自分にあった勉強方法というのは巡礼の旅に似ていて、自分のなかで何か確信をもているまで不安は続く(巡礼の旅なんてしたことないけど)。 そんなこんなで私はなぜか、英語学習の日々から抜け出すためフランス語の勉強を始めた。そう、これが逃走力の成せる技である。


 「え?なぜフランス語?」と思う人もいるだろう。私もそう思う、なぜフランス語なんだと。しかし、私の脳内はもっともらしい理由をでっち上げ行為を正当化する。「フランスって英語が話しても通じないって聞くし、旅行するときに備えてフランス語の簡単な聞き取りと会話はできるようになったほうがいいから、今勉強しないといけないんだ!」と。山がそこにあるから登るのと同様に、そこにフランス語があったから私は勉強を始めたのである。現時点で利用している言語学習のアプリの記録は31日連続で続いている。この情熱とやる気を英語に活かすべきだろう。しかし人間は逃げるのだ、私のように。

 思えば立ち向かったこともあったが逃げることが多かった気がする。自分にとって居心地の悪い環境を打破したり改善したりすることはせず、別の場所に逃げてきた。そんな私だからこそ思うのだが、逃げる時の力って普段の力より強い気がする。よく経営者とかの努力自慢で死ぬか成功するしかなかったんですよって言っている人を見るが、彼らもそのときの環境(貧乏な状態、自分の欲求が満たされない状態)から逃げたいという強い気持ちがあったからこそ、力が湧き上がったのだと思う。いやそれは逃走力じゃなくて本人の力だろって話なのだが、逃走力と表現したほうが前向きになれる人も多いのではないかと思って表現している。とくに日本人はネガティブ思考でスタートする人が大半なので、ここは日本人らしく「逃走」というちょっとしたネガティブワードを混ぜて使うことで、心に馴染みやすい言葉にしてみたのだ。


 ではこの逃走力をうまく利用する方法とはいったい何だろう。それは作為的に作れるものなのだろうか。私はそうは思っていない。無意識のなかで芽生える天然の逃走力は大事に育てなければいけない。私の場合は英語学習を続けることで生まれた逃げたい気持ちをフランス語学習にぶつけている。これを分析すると、英語学習がなければフランス語学習は実行されず、フランス語学習がなければ英語学習のストレス値が上がることになる。そして両方勉強を続けていれば一挙両得の結果が予測されるのだ(英語の学習スピードは落ちそうだけど)。ちなみに逃げたい気持ちが生まれた初期段階のとき、私はそれを学習に使わずただ浪費していた。振り返るとこの初期段階が大事だと思う。ここでネットサーフィンに出かけるのではなく、別の学習という選択をとったので私は元気にほかの学習も続けている気がするのだ。別に人類全員に学習を強制しているわけではないが、逃走力の使い道の大きな選択肢の一つが学習だと思う。脳は何歳になっても成長するらしい。この調子でいければ、私はかなり頭がよくなりそうだ(この発言自体がちょっと頭悪そうだけど)。

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