第4話

 律子へのプレゼントを買って、最初のバイトの日、僕はとうとうプレゼントを渡せなかった。


 その晩、亜子から電話があった。


「崔君、プレゼント渡せた?」

「……渡せなかった」

「なんで? 何してんの? 崔君、ほんまに度胸も根性も無いんやな」

「ちょっと待ってや、それはヒドイで。渡しにくいやろ? わかってくれ」

「私にはスマートに渡せたやんか」

「あれはお礼やったから」

「同じことや、明日、バイトは?」

「休み」

「明後日は?」

「バイト」

「ほな、明後日! 明後日は渡さなアカンで」



 翌々日。ちょっとだけ律子と2人きりになる時間があった。


「律子さん、これ、安物ですけどプレゼントです」

「え! なんで?」

「とにかく、受け取ってください。ポケットに入れてください」

「うん」



 律子が休憩から出て来た。僕の横に並ぶ。


「休憩時間に中身を見たんやけど、あれ、高かったんとちゃうの?」

「いえいえ、気持ちだけです」

「でも、なんで私だけ?」

「いやぁ、僕にとって律子さんは特別なんですよ、あははははぁ」

「そうなん? ありがと」


 その後は、お互いに意識してしまってギクシャクしてしまった。



 亜子から電話があった。


「崔君、渡せた?」

「渡せた」

「ほんまに? よくやった! 崔君えらい!」

「でも、プレゼントを渡したことで、その後は互いに意識してギクシャクした」

「はあ? あんた、何やってんの? 距離を縮めるチャンスやのに!」

「どうしたらええと思う?」

「うーん、そうや、ここは賭けをしよう! 次に律子さんに会った時に、律子さんが崔君のプレゼントのネックレスを身に付けていたらデートに誘おう!」

「げえ! で、デート?」

「うん、“今度、遊びに行きましょう”でええねん」

「どこに行ったらええかな?」

「そんなん、自分で考えなアカンで! まあ、水族館とかテーマパークでええんとちゃうの?」

「“彼氏がいるから”って、断られるんとちゃうの?」

「“ちょっと遊びに行くくらいいいじゃないですか”とか」

「ああ、なるほど」

「崔君、チャンスやで! 崔君の目標は何?」

「童貞卒業!」

「ちゃうやろ、彼女を作ることやろ!」

「そうや、亜子が僕の童貞を奪ってくれたらええねん」

「なんでそんな話になるの! させへんわ!」

「1回だけ」

「アカン、現実から目をそらしたらアカンで、その相手は律子さんや! 彼氏から律子さんを奪うんや!」

「ああ、うん、わかった」



 次のバイトの日、律子は僕がプレゼントしたネックレスを身に付けて来た。僕は2人きりになる瞬間を待った。スグにチャンスは訪れた。


「そのネックレス、早速身に付けてくれたんですね、気に入ってもらえましたか?」

「うん、すごく気に入ってる、ありがとうね。でも、何かお礼がしたいんやけど」

「ほな、1度、一緒に遊びに行きましょう」

「どこ行くの?」

「水族館とテーマパーク、どっちがいいですか?」

「うーん、水族館。あ、でも、私は彼氏がいるから」

「ちょっと遊びに行くくらいいいじゃないですか」

「うーん、そやね、ほな、今度の土日に行く?」

「あ、土曜は僕も律子さんもバイトは休みですね。土曜はどうですか?」

「ええよ」

「ほな、何時にどこで待ち合わせます?」



 亜子から電話がかかってきた。


「崔君、どうやった?」

「土曜、水族館に行くことになった」

「やったー! 良かったやんか」

「問題はデート中の会話や、会話をリード出来るかなぁ」

「相手の方が年上やねんから、少し甘えてもええんとちゃう? それに、水族館やったら魚を見ながら会話はできると思うで」

「そうかな」

「ここで宿題!」

「うん、何?」

「キスすること」

「ええー!」



 おいおい亜子さん、何を言い出すねん!







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