第3話

 また亜子から電話があった。金曜日の夜だった。


「崔君、また1週間経ったで-!」

「うん、1週間経ったね」

「少しは会話が盛り上がるようになった?」

「うーん、うん、多分」

「どんな感じ?」

「レンタルで、〇〇〇〇を観たから、“観ましたよー!”とか」

「“観ましたよ-!”の後は?」

「〇〇〇〇の内容、感動したとことか、いろいろ話せた」

「おー! 頑張ったやんか」

「同じ要領で、好きなアーティストが誰かを聞き出して、そのアーティストや曲の話をしたら、かなり話が出来た。ちょっとは盛り上がったと思う」

「急成長やんか、でも、なんか元気無いなぁ、どないしたん?」

「だって、彼氏の話をされるから。しかも、楽しそうに」

「だから、何?」

「“やっぱり僕と付き合ってもらわれへんなぁ”と実感する。凹む」

「大丈夫! チャンスは必ず来るから!」

「そうかなぁ」

「私もしばらく片想いやったけど、きっかけがあって付き合うようになれたから」

「うーん、そう言われても、彼氏とのノロケ話を聞かされたら嫌になるで」

「今は辛抱する時やねん。そうや、3人の中で誰と付き合いたいか? 優先順位をつけたらええねん」

「優先順位?」

「3人の中で1番付き合いたいのは誰なん?」

「栞さんやけど、5歳も離れてたら相手にしてもらえないと思う。だから、アタックするなら明美さんかなぁ」

「ほな、明美さんメインで攻略する方法を考えたら?」

「いや、いやいや、やっぱり付き合うイメージが膨らむのは、1番歳の近い律子さんかも」

「ハッキリせえへんなぁ、イライラするわ。ほな、私が決めてあげるわ、律子さんにしとき!」

「あ、ああ、ほな、それで」

「他の2人とも親しくなる方向で進めて、メインは律子さん、それで行こう!」

「うん、それでええよ」

「誕生日とか聞いた?」

「聞いてへん」

「ほな、誕生日じゃなくてもええから、何か律子さんにプレゼントしたら?」

「それはええけど」

「ええけど?」

「何を買ったらええのか? わからへん」

「ほな、私が買い物に付き合ってあげるわ、明日はバイト?」

「いや、バイトは無い」

「ほな、〇〇駅に〇〇時」

「わかった、ありがとう」



「お待たせ!」

「いや、待ってへんけど」

「私、15分遅刻したで」

「そのくらい、ええやんか。今日は僕のために来てくれてるし」

「その優しさは、ええと思うで」

「で、何をプレゼントしたらええの?」

「アクセサリーがええんとちゃう?」

「そやな、ネックレスやったらサイズを知らなくてもええしな」

「そうそう、指輪はサイズを知らないとアカンし、重いから。それで言うと、ネックレスも重いんやけど、やっぱりもらったら嬉しいからね」

「選んでもらってもええかな?」

「うん、ええよ。そのために来たんやから。予算は?」

「どのくらいの金額のがええの? 一応、10万持って来たけど」

「10万? 付き合ってもいないのに10万は重いわ。2~3万のでええで」

「ほな、選んでくれる?」

「任せて!」



「これがええと思うで。値段よりも高そうに見えるし」

「でも、1万5千円やで。安くない?」

「付き合ってないんやから、このくらいの方が相手も受け取りやすいと思うで」

「そうかな?」

「値段より高く見えるから、それで大丈夫!」

「ほんなら、これを買うわ。あ、亜子、それは?」

「え? ピアスやけど。私も買おうと思って」

「そのピアス、僕がプレゼントするわ」

「え! ええの?」

「うん、今日のお礼」

「惜しいなぁ、崔君、モテる要素は沢山あるのに」



「で、これ、なんて言って渡そう?」

「“ちょっとプレゼントです”とか、そこは変に考えなくてええんとちゃう?」

「“3人いるのに、なんで私だけ?”とか言われるんとちゃうか?」

「ほな、“律子さんのことが好きなんで”って、正直に言ってみたら?」

「え! 告るの?」

「うん、ええと思う。でも、今後のことがあるから、“僕の片想いだから気にしないでください”とか言葉を付け足したら? 間違いなく1歩前進するで」

「うん、わかった」



 僕の師匠は面倒見が良かった。







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