第2話

 1週間後、また亜子から電話があった。


「崔君、1週間経ったけど、どう?」

「うん、ちゃんと1日に2回ずつ話しかけたで」

「どんな風に?」

「え? “趣味は何ですか?”とか」

「ほんなら?」

「よく映画を見るって言ってた」

「ほんで?」

「“どんな映画が好きですか?”って聞いてみた」

「それで?」

「〇〇〇〇って言ってた」

「それで?」

「え? “それで?”って、どういうこと?」

「その後の会話は?」

「え? “あ、そうなんですか”って言ったけど」

「何それ」

「え?」

「信じられへん、それやったら、そこで会話が終わってしまったやろ?」

「うん、終わったで。え、アカンの?」

「その〇〇〇〇の話で会話は膨らむはずやで」

「え! 僕、〇〇〇〇観てへんで。観てたら何か話せるけど」

「観てへんのやったら、“どんな映画なんですか?”とか聞いたらええやんか」

「あ、ほんまやなぁ、しまった」

「崔君、話を膨らませるなら、1つの話題で盛り上がらなアカンで。そんなんやったら、付き合えるチャンスがあっても逃してしまうわ」

「ごめん、反省するわ」

「他には?」

「え、他って?」

「他には、どんな会話をしたん?」

「ああ……“休みの日は何をしてるんですか?”って聞いたんやけど」

「あ、それ大事かも」

「3人とも、デートって言うてたで」

「それで?」

「え? それを言われたら、もう何も言われへんやんか」

「何を言うてんの? この前、言うたやんか、彼氏がいても引いたらアカンって」

「でも……3人とも僕より年上やし、モテそうやし、僕なんかが口説いてもアッサリ断られると思うねん」

「そんなん、アタックしてみないとわからへんやんか」

「そうかなぁ……っていうか、僕、亜子にフラれてるやんか」

「だって、私は好きな人がいるから」

「たった今、彼氏がいても引いたらアカンって言うたくせに」

「私は……だって、将来は結婚しようって言われてるもん」

「そうなん? そんな深い関係なん?」

「うん、実はもう不倫してるねん」

「なんや、片想いかと思ってた」

「友達にも言うてへんねん。高校生で不倫してるって言いにくいやろ」

「ほんで、将来の約束をしてるの?」

「うん、私は卒業したら短大に行くつもりやねんけど、短大を卒業すると同時に結婚する予定やねん。彼氏は今、奥さんに払う慰謝料を貯金してるんやって」

「ふーん、僕なんかよりも遙かに上の階段を上ってるんやなぁ」

「私のことはええねん、次の課題は、1日に2回ずつ3人に仕事以外のことで会話して、今度は話題を膨らませること。あ、レンタルで〇〇〇〇を見たらええんとちゃうかな? “〇〇〇〇、観ましたよ-!”って会話が出来るやんか」

「うん、わかった」

「しっかりしてや、私の彼氏なんか、嘘っぽく聞こえるくらい口が上手いのに」

「わかった」

「あ、崔君が本当に聞きたいことって何?」

「うーん、胸、何カップか? とか……」

「アホか、これやから童貞は……」

「童貞とか言わないように!」

「童貞を捨てたかったら、早く彼女作りなさい-!」



 亜子は厳しい師匠だが、僕はダメな弟子だったと思う。この頃の僕は最悪だった。







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