「上総風土記」他 村上元三 1940年下半期 第12回

 村上元三は昭和期に於ける時代小説の大御所的存在だ。戦後のGHQ占領で時代小説の発行禁止令が解かれて間もなく『佐々木小次郎』を出版し、戦後に於ける時代小説の重役を担った。そんな戦後時代小説の草分け的存在は戦中に、やはり時代小説で、直木賞を受賞している。

 「上総風土記」は徳川綱吉により生類憐みの令が出された頃の上総国が舞台である。農作物を荒らす獣を狩ったために、猟師総兵衛は死罪、七ケ村の名主たちは流刑となった。流刑となった名主の中に次郎兵衛が居たが、彼は妻子を残したままだった。その女房は息子の万五郎を産んだばかりだったか、持病のため、乳が出なかった。下男の市兵衛は村中に貰い乳を募ったが、彼は村からは煙たがれる。そんな市兵衛にも、大切な家族が居て……

 ネット環境が整った現在、地縁というのは益々薄まってきている。しかし、地縁という関係性は、昭和に至るまで強力な影響を有して、ときに迫害の歴史もあったことを忘れてはならない。

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