伝説の剣の伝説

 勇者エランは、はじまりのほこらの奥にいた。

 彼の目の前には、地面に刃の先端を埋めた剣があった。暗く湿気のあるほこらでその刃は今もなお美しく、手入れの行き届いた輝き

をしていた。

 大国では国王の独断により、数年に一度、魔王に立ち向かう勇者を選び旅をさせている。

 先日、エランは勇者に選ばれた。彼は旅の準備を済ませ、国の管理するはじまりのほこらに入ることを許可された。

 はじまりのほこらには魔族に対抗する貴重な武器が置かれ、結界が張られている。勇者に選ばれたものはその武器の中から

好きなものを選び、冒険へと出発する習わしだった。

 エランは剣の持ち手を握り、頭上に掲げるように一気に振り上げた。その瞬間剣は一層輝きを増した。

 このほこらの武器にはそれぞれ伝説があった。この国の子どもは絵本の中でその伝説の数々を知っている。

 エランが中でもとりわけ憧れたのがこの伝説の剣だった。この剣には意志があり、剣自身が選んだ者でしか、地面から

抜けることはない、と語られていた。

 エランは伝説の剣に選ばれたのだ。

 彼が嬉しさに噛み締めていると、ガードの中心にはめ込まれた赤い石が光る。

 「わたしの名前はアウロード」冷静で品のある声で剣は話す。

 「君が冒険に挑むとき、わたしが君を導こう」


 喋る伝説の剣アウロードとの冒険が始まった。

 アウロードは今までも数多くの冒険をしていた。アウロードの知識と力を武器に、エランは冒険の中で困難を乗り越え、成長して

いきました。


 「昔々、ひとりの冒険者が伝説の剣に導かれ、大いなる冒険に挑むことになりました。

彼は森の奥深くに広がる神秘的な遺跡を目指していました」

 アウロードはこなれた語りで話しだす。エランはたき火の火の前でじっとアウロードの過去の物語を聞いた。

アウロードが何かと自分の冒険譚を語りたがることにエランが気が付くのは、そう遠い話ではなかった。

思い出の場所、印象にある出来事を思い出す状況。砂の城が崩れる時のようにちょっとした引き金で、語りは始まる。

今回は、大きな湖のある野外で寝る前にたき火をしたのが語りのきっかけになった。

 エランはジッとそれを聞いていた。彼は喋るのが得意ではなかったし、物語を味わうように聴くのが好きだった。


 ある道の中、アウロードは竜の討伐したことを語りだす。

 「大陸に戦慄を響かせた巨大な青竜ディガロン。村々が次々と灰と化すその者に立ち向かう勇者がいた。

彼女の名リリアン。彼女はわたしと、古の勇者の鎧を身に着け一人で戦いに挑んだ。

ディガロンとの対峙は無謀に思えた。奴は火を吹き、爪で岩を引き裂く。その姿は、まさに恐怖そのものだった。

しかし、リリアンは恐れなかった。勇気と力強い心を彼女は持っていたのだ。

長く激しい戦いの中、リリアンは竜の弱点を見つけ、その大きな瞳に向けて残りの力を込めて一気に技を放った。

竜は苦悶のうめき声を上げ、その巨体は動かなくなった。

巨大な竜の脅威を打ち破ったリリアンは人々から称えられ、平和を取り戻したのでした」


 ある道の中、アウロードは世界を支配する魔王を倒した勇者のことを語りだす。

 「ヴァレットは、世界を蝕む魔王デモゴルスに立ち向かう勇者でした。

彼は古の予言に名前が刻まれた者であり、勇者としてだけでなく”選ばれし者”として知られていた。

デモゴルスの影は世界を覆い、恐怖と混沌が広がっていました。

勇者ヴァレットは仲間たちと共に、危険に満ちた冒険の旅に身を投じました。

過酷な試練や仲間たちとの別れがあったが、ヴァレットは決して立ち止まらず、勇者としての使命に忠実だった。

魔王デモゴルスとの戦いは壮絶なものだ。

剣と魔法の激しい交戦の末、ヴァレットは己の限界を越え、わたしの力を100%引き出し、魔王を倒したのです。

デモゴルスは怒号とともに敗北し、彼の邪悪な影は消え去った。

ヴァレットはその勝利の瞬間、世界に光と平和を取り戻しました。

魔王の影は消え、新たな希望の時代が始まるのでした」


 アウロードの話が百を超え、多くの月日が流れたある日、エランは岐路に立っていた。

 「エラン、君の冒険はこれまで以上に大きな試練になるだろう」

 この先の道は魔王の懐と呼ばれるエリア。今の彼はこの先に進むべきか悩んでいました。一層強力になる敵たちに立ち向かえる

か不安でした。

 「決めるのは君だ」

 アウロードの言葉にこれまでの冒険の記憶がよみがえります。旅の中、大きなけがを負いながらも多くの魔族を倒し、村を救ってき

ました。大きく成長を遂げ今ここに立っていたことを思い出します。

 エランは胸の前で拳を握り決意しました。


 ユリは明日に備え、宿屋の一室で荷物のチェックをしていました。

 「ねえ。変わった勇者の話を聞かせてよ」ユリは隣のベッドの上に置かれた剣に話しかけました。

 「もちろんだよ、ユリ。さて......これは、君も知っているかもしれないが、今は有名な作家になった勇者のことだ__」

 ユリが寝落ちするまで、アウロードは語ります。道半ばで旅をあきらめ、勇者の伝説の数々を読み物に変えた勇者エランという

変わった勇者のお話を。

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異世界ショートショート 文屋敷ふみや @populuspopulus

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