異世界ショートショート
文屋敷ふみや
ダンジョン・マネジメント
冒険者がダンジョンに踏み込み、モンスターと戦うことが日常茶飯事な世界。
これは、はるか昔から存在する大型老舗ダンジョン『ブラッドローズ城』を運営するモンスターの皆様のお話。
「ブラッドローズ様。市で売ってたアイテムと罠を取りに行ってきましたよ」
「ご苦労様」ロクは目の前にいるデーモンの女性に遣わされた仕事の報告をした。
彼女はこのダンジョンを仕切るダンジョンマスターのブラッドローズさんだ。
「よいせ」とロクはパンパンになったリュックサックを床におろした。人のいる街から三時間以上は歩いただろうか。ロクは腰に手を
あて伸びをした。身寄りのない彼は、とある事情で目の前のダンジョンマスターに気に入られ、住み込みでダンジョンに暮らす唯一
の人間だ。
「さってと、じゃあ一つ一つ確認していきましょう」
彼女は目を輝かせながらリュックを開いていく。即死級の猛毒を塗った矢を発射する罠。パネル上の板に乗った瞬間にそのパネルの
上にいたものを跡形もなく爆発させる罠……etc.。彼女がリュックから引っ張り出すたびに一つ一つを説明していく。だが爛々とし
ていた彼女の目が次第に曇っていった。
「ちがーう! こんな罠じゃだめっ」
「えー何が不満なんですか。殺傷能力高いものばかりですよ。しかもどれも半額で売られていたんです」
「殺しちゃダメなの! 最近のダンジョンは冒険者殺さないのが主流なんだから。歴代のダンジョンは、このがらくたみたいなの
ばっかりで冒険者を殺しまくってたせいで、冒険者は減ってるの。私のダンジョンには今でさえ冒険者が来ないのに、こんなの使った
ら逆効果よ」
ロクはその言葉に、この一週間ほど『ブラッドローズ城』に冒険者が一人も来ていないことを思い出した。
「えーじゃあ半額で売られてたのって......」
「誰も使わなくなった中古品を処分セールしてただけね」残念。重労働が徒労に終わったことにロクは落ち込んだ。
「今回勝ったものは使えないわね……おや」
ブラッドローズは、周りに無造作に広げられたアイテムの一つをじっとみつめた。
「どうしたんですか?」「これ不良品ね。みて、ここ。」
ブラッドローズが指さしたのは、ボタンを押すと電撃が流れる正方形のトラップだった。彼女はそのトラップの側面を
指さして、黒焦げになっている部品をみつめている。
「この部分には本来電撃量を調節するボリュームと罠を配置するまでスイッチの起動しないための安全装置がついているのよ。
でも黒焦げになっちゃっているわ。おそらく材料費をケチって電撃に耐えられない部品で組み立てたのね。電撃に耐えられず
ボロボロになった」
「えっそれ、僕が持ち運んでいる最中にスイッチが動いてたかもしれないんですか?」
「そういうことね。運がよかったわねロク。これはすぐに処分しましょう」
彼女が立ち上がろうと右足を半歩後ろに動かすと、ボール状のアイテムを踏んでしまう。バランスを崩した彼女はつまむように軽く
持っていた電撃トラップを目の前に手放した。後ろに倒れそうになった彼女は倒れまいと勢いをつけて、一歩分足を前に出してしまい。
「あっ__」言い終わる前に彼女はヒールで電撃トラップのボタンを踏んでしまう。トラップは青白く光ると上に向かって放
電を開始。きっかり二秒の強烈な電撃が終わると、彼女の動きが一時停止したまま、ぼはっと口から黒い煙を発した。
すべては一瞬の出来事だった。
「ブラッドローズ様大丈夫ですか!」明後日の方向を見る彼女に対してロクは不安そうに声をかける。彼女は突然笑顔になった。
「ふっ……ふふふっ!ふふふふふっ!!」
「あー主がとうとうおかしくなってしまいました」ロクは目も当てられないという風に片手で自分の両眼を覆った。
「体が軽いわ! このトラップ採用。私の部屋にもっていってちょうだい!」
彼女は右腕をぐるぐるとまわしながらそう告げた。
こうして不良品の電撃トラップはその絶妙な電撃でモンスターたちの体をほぐすマッサージ機として採用されました。
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