【S.PCO】結論：デバフ装備で夢想中。〜呪いの剣しか装備できないけれど、《白銀剣姫》と呼ばれ一人無双しました。

第9話 そして《白銀騎士》に認められる

　ここままだと勝てない。

　シロガネは察すると、変に体に力が入りそうになる。

　しかし緊張を解きほぐす間はない。

　それよりも早く、シルバーナイトは動いたのだ。

　ガチャン！

　金属が擦れ合い、シルバーナイトは距離を詰める。

　手にした剣を振り上げると、顔もまともに見せずに、シロガネへと叩き込む。

「うっ！」

　シロガネは体を仰け反らせる。

　上半身があり得ない動きを見せ、剣の軌道から外れる。

（今の、当たったらダメかも）

　攻撃を全力で回避して分かる。

　下手な真似をすれば切られる。

　正直レベルや武器の差ではない。

　圧倒的な技量の差に押し負かされそうになるも、決して諦めはしない。

「当たったらダメなら、当たらなければいい」

　シロガネは常人では考えられない無理難題を口にする。

　あれだけ洗練された剣を前にして、あまりにも驕りが過ぎた。

　それでもシロガネ自身はできる気しかしていない。

　何故ならば、シロガネは無心だったからだ。

「スイッチ入れた」

　頭の中でスイッチを切り替えると、シロガネは恐怖心を克服した。

　目の前に立ち込める殺意のこもった瘴気さえ、簡単に打ち崩してみせる。

　それほどまで自分を追い詰めると、心が“無”を形成し、後は意識が体を動かすのに身を任せるだけだった。

「行く」

　ここからはシロガネのターンだ。

　そう言わんばかりの動きで、まずは体を倒す。

　前傾姿勢になると、勢いよく地面を蹴った。

　小さな石片が飛び散り、同時にバランスの取れたステータスが、シロガネの体にかかる負担を軽減する。

「来るか」

　シルバーナイトは逃げなかったシロガネに相対する。

　元々逃がす気は無かったが、向かって来るなら好都合。

　そう言わんばかりに剣を掲げると、シロガネの体に剣を叩き込もうとする。

「遅い」

　シュン！

　風が通り過ぎたような風切りを音立てた。

　直後、シルバーナイトの振り下ろした剣を、真っ向から避けて見せると、安物の初期装備剣で、シルバーナイトに果敢に攻め込む。

　ガンガンガンガンガーン！

　硬い胸板の鎧を剣で傷付けてみる。

　もちろん、防御力が圧倒的なためか、擦り傷帝としか付かない。

　HPを削ることは不可能で、シロガネの攻撃は無駄に終わる……ことはない。

「ドンドン行く」

　そこからのシロガネの動きは異次元だった。

　無限に剣を叩き込むその姿はまさに狂気としか言いようがない。

　そこに心は無く、ただ無心に、ただ目の前の敵を倒すために頭の中で夢想する。

　それが現実に変わると、夢想したものは本物の無双へと変わるのだ。

　ガーン、ガンガンガンガン！！

　シロガネは何度も何度も鎧に攻撃を叩き込む。

　まさに無双無尽。幾重にも重なる攻撃の連鎖が留まることを知らない。

　しかも恐ろしいことに、シロガネの叩き付ける剣戟は、何度も何度も、同じ所を攻撃した。

「まだ」

　しかしこれでは終わらない。終わらせはしない。

　シルバーナイトに攻撃させる隙さえ与えず、何度も何度も剣を叩き付けた。

　ガキン、ガキンガキンガキンガキン！！

　シロガネの叩き付ける剣は、もはや形さえ残らない。

　ボロボロに刃毀れすると、剣身が削れ、今にも折れてしまいそう。

　このままではシロガネの剣の方が先に音を上げてしまいかねないが、それでもシロガネは止まらない。

「まだまだ」

　シロガネは剣を叩き込み続ける。

　もはや尋常ではない異常なまでの速度。

　シルバーナイトはただ攻撃を喰らい続けるだけの的になり、シロガネは一方的な無双状態を完成させている。

「まだまだまだまだ……まだ！」

　シロガネは剣を叩き下ろした。

　もはや普通の剣じゃない、これは短剣だ。

　そう思わせてくれるほど短くなった剣を振り上げ、シロガネはシルバーナイトを襲う。

「これでトドメ……あっ」

　シロガネが剣を叩き込む。

　すると鎧に叩き付けた瞬間、剣が先に音を上げる。

　ポキッと刃毀れが広がり、砕け散ってしまった。

「ヤバい……」

　シロガネは危機感を覚える。

　流石に折れるのは計算外で、同時に我に返ってしまう。

　スイッチが切り替わり、いつもの状態に戻ると、シロガネはシルバーナイトを見る。

「武器が無いと、倒せない」

　シロガネが強張る声で呟く。

　しかしシルバーナイトは動かない。

　剣を下ろしたまま、HPバーも以前健在の中、ピクリともしなかった。

「どういうこと？」

「見事だ」

　シルバーナイトから所産の声がした。

　シロガネは疑ってしまいそうになるが、殺意が消え、敵意が完全に消失していることが消える。

「ありがとう」

「持っていくがいい。お前になら、預けてもいい」

　シルバーナイトは意味深な言葉を吐いた。

　シロガネは理解できないからか、首を捻ってしまう。

　しかし訊ね返す前には、目の前からシルバーナイトの姿が消えていた。

「いなくなった？　勝った？　の？」

　シロガネはシルバーナイトが消えたので周りをキョロキョロ見回す。

　上下左右、何処を見ても姿が無い。もしかしなくても、退けたのだ。

「持っていく？　預ける？　よく分からないけど、とりあえず一安心」

　ホッと胸を撫で下ろすと、シロガネは安堵の表情を浮かべる。

　暗闇の中、再び光を失った世界。

　そこにポツンとするのは、宝箱のみで、シロガネはジーッと見つめた。