第7話 謎の宝箱
シロガネとニジナは洞窟に逃げ込む。
大きめの洞窟のようで、広々としている。
熱もあり、外の雪もあまり入ってきていない。
「ふぅ、助かったね」
「うん。命拾い」
ステータスに体温下降の表示が出ていた。
危うく低体温症で、パラメータが下がる所だったが、何とか耐え抜く。
徐々に体温も上がってきたのか、表示も消えそうだ。
ニジナはホッと一息付くと、シロガネに言った。
「とりあえず、しばらくここで休もうか」
「うん」
これ以上、洞窟の外に出るのは危険だ。
危うくも何も、命の危険が大きい。
最悪がすぐ目の前にあるので、洞窟の中で待機することにしたが、流石に手持ち無沙汰は否めない。
「この洞窟、広そうだね」
「うん」
「でも、奥に行けば行く程危険だからね。このエリアは、きっとモンスターのレベルも高いから」
ニジナは経験則的に、雪が降るエリアはダンジョン含めて危険。
モンスターのレベルも高いだろう。
その事実に真っ先に気が付くが、このまま立ち尽くすのも、体温が下がるだけだ。
「もう少し、奥に行ってみる?」
「えっ、行くの?」
「無理には言わないよ。言ってみただけ……シロガネ?」
シロガネは急に立ち上がった。
何を思ったのか、ニジナは手を伸ばす。
すると洞窟の奥を睨み、口を開いた。
「行ってみる」
「えっ、行くの?」
「うん。ここにいても変わらない。私のせいだから、私がやる」
シロガネは何も考えていない訳じゃなかった。
むしろ自分のせいでニジナを巻き込んでしまった。
自責の念を感じると、率先して動こうとする。
「ニジナはここで待ってて」
「あっ、ちょっと待って」
シロガネは先を行こうとするので、ニジナは止める。
腕を掴むと、ムッとした態度で逆に答える。
「私も行く。一人より二人の方が、なにかと二倍でしょ?」
「なにかと?」
「探索力や適応力。もし戦闘になったら、二人の方がまだリスク分散できるからね。一人で背負いこまないこと。これ、パーティーでの鉄則ね」
「分かった。ごめん」
シロガネはニジナに痛い所を突かれた。
もちろん、言い返せる訳も無いので、シロガネはニジナの言い分に従う。
けれど逆にホッとした。
一人で探索に行くのもそうだが、ニジナを一人置いて行くのも忍びない。
一緒に来てくれると分かると安堵し、二人して洞窟の奥に向かう。
「それにしてもこの洞窟、なにも無いよね」
「うん。モンスターもいない?」
洞窟の中は異様に静かだった。
恐らくダンジョンなのだろうが、張り合いがない。
ましてやモンスターもいなければ、鉱石も無く、採取できるものの一つも無い、ただの穴だった。
「多分モンスターもいないと思うけど……ごめんね、私は【気配察知】のスキルを持ってないから」
「大丈夫。気にしないで」
ニジナはたくさんのスキルを持っているが、ほとんどが戦闘に役立たない。
そのせいか、少しでも情報が欲しいこの場面でも、あまり役に立てない。
本当は
「それより、この洞窟は何処まで……あっ」
シロガネが視線を前に戻すと、洞窟が二手に分かれている。
右と左。どちらも規模としては同じくらいの道だ。
「分かれ道だね。どっちに行く?」
「……分かれた方がいい?」
「うーん、時間効率を考えればそうだけど、一緒に居た方が安心はできるからね」
取捨選択だ。二手に分かれた道を如何進むか、シロガネとニジナは考える。
もちろん、二人一組なら安心感は増える。
万が一の時にも対応ができるからだ。
しかし反対側が罠の場合、二人一組での行動は危険だ。
最悪の場合、どちらともに強制ログアウト。
その危険性を天秤にかけると、ニジナは提案する。
「ここは二手に分かれてみよう」
「えっ?」
「それぞれの突き辺りまで行って、なにも無かったら戻って来る。なにかあったら、引き返して伝える。移動距離は増えるけど、効率はいいでしょ?」
「効率……分かった」
シロガネはニジナの提案に乗っかった。
それが一番無難だと悟ると行動は早い。
後はどちらが左右に分かれるかだが、応えは決まっている。
「私が左側に立ってるから、左に行ってみる」
「それじゃあ私は右だね。なにかあったらすぐに連絡」
「うん」
「くれぐれもバカな戦いはしないように。命大事に、逃げられるならすぐに逃げて来てね」
「分かった」
「それじゃあ、後でね」
シロガネとニジナはそれぞれの道に進んだ。
とりあえず突き辺りまで行ってみれば、何か分かるかもしれない。
その想いで向かってみるも、この時点でシロガネは嫌な感じがした。
「この道、凄く思い」
空気が重いと言えば伝わるだろうか?
左の道に一歩踏み出した瞬間、全身を駆け抜ける強烈な悪意を感じる。
これが殺気、いや、威圧? 何かは分からないが、今更引き返す気は無く進んだ。
ニジナは洞窟の右ルートを進んでいた。
とりあえずモンスターが出てくる様子は無い。
ましてや明かりもないので、不気味さが漂うが、常に盾を前に構え、慎重に進んだ。
「この道、本当に真っ直ぐだね」
洞窟に入った時もそうだったが、この洞窟はただ真っ直ぐな道がひたすら続いている。
そのせいか、とても歩きやすく、下手に整備されていない自然の道でも、難なく踏破できる。
同時に不自然な違和感を感じ取る。
明らかに“出入りが容易な作り”になっていて、ニジナには一抹の不安が生まれた。
「もしかして、自然のものを大昔のNPCが手を施した?」
このゲームの世界観では、ポッと出で世界が構築されたわけじゃない。
この世界独自の歴史があり、同時にNPC達も現実の人間のように成長している。
高度なAIと学習機能を搭載しているおかげか、もはや人間と同じだ。
「もしそうだとしたら、転移装置もあるかも」
期待に胸を膨らませると、ドンドン進みが早くなる。
そうしていると、気が付けばかなり奥までやってきたらしい。
道の幅は変っていないが、横が少し開けたのか?
ニジナは気が付くと、右ルートの最深部に辿り着いていて、そこは狭いが開けた空間だった。
「うわぁ、急に広くなったよ。もしかしてここが一番奥?」
暗くて良く見えないが、きっとそうに違いない。
声が反響すると、ニジナの声が二重に重なる。
反響して返るまでが早く、確信を持って空間だと分かると、慎重に一歩踏み出す。がしかし、何も作動しなかった。
「なにも起きない。ってことは、ここはハズレ?」
流石に何も起きないのなら、このルートは間違いだろう。
ニジナは少しだけ探索をしてから引き返すことを決めるも、引き返すのは必要だとして、それ以上に重要なものを見つける。
コツン!
「なにかあたった? ん」
爪先が何かに触れた。
硬いもののようで、しゃがみ込んで凝視すると、輪郭がはっきりする。
「もしかして、転移装置!?」
指触った感触で確かめる。
ファンタジー世界には似合わない、何処か近未来感のある装置だ。
機械の冷たさが指先に伝わり、パッと顔を上げると、早速シロガネを呼びに向かう。
「よかった、辺りは右ルートだったんだ。早くシロガネに知らせて……」
しかしニジナの足が止まる。
本当は早く連れて来るのがベストなのだが、ある種の法則性に従う。
「待って。右ルートが安全で正解な道ってことは、左ルートは……ああ、ヤバいかも!?」
右ルートが正解なら、左ルートはハズレになる。
当たり前のことに取り乱すと、シロガネのことを心配する。
より足早になると、敏捷性(AGI)が低いことを恨みつつ、急ぎシロガネの下に向かう。
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