第6話 ランダムポータルの罠

 シロガネとニジナの二人は、一緒に歩いていた。

 二人共、マウス・ルクーンとロングホーン・ラビットを倒したことで、レベルが一つ上がっている。


「ニジナ、レベルが上がったら、色々数字が増えたよ?」

「よかったね、一気にLV3だ!」

「それにスキル? も増えてる。【見切り】と【受け流し】と【パルクール】だって」

「おお、流石はシロガネだね。【パルクール】って、なかなか取れないスキルだよ」


 シロガネの成長はなによりも大きかった。

 ステータスのパラメータ自体は、ただ数字が増えただけ。

 伸び率はそこまで変わらずで、成長が分かり難いのだが、いきなり三つのスキルを獲得していた。



スキル【見切り】

条件:相手の攻撃を視力・動体視力により察知する。

説明:相手の攻撃を、初動作に合わせて瞬時に察知・理解できる。


スキル【受け流し】

条件:相手の攻撃を受け流す。

説明:相手の攻撃を的確に受け流すことにより、ダメージを最小限に抑えることができる。


スキル【パルクール】

条件:パルクールを使用する。

説明:道具を使用せず、身体機能のみで移動する動作を高める。また、高低差を気にせず、衝撃をある程度吸収し、三次元的な動きを可能にする。



 以上の説明が記載されていた。

 シロガネは目で追うと、ニジナに訊ねた。


「強いのかな?」

「戦えば分かるよ。全部戦闘系でしょ?」

「多分。次のモンスターはどうするの? 探す?」

「うーん、そうしたいけど……この森、ファントラの森は、モンスターのレベルが高いからね。できるだけレベルの低いうちは、浅めを狙った方が無難かも」

「そっか……じゃあそうする?」


 シロガネはすぐに折れた。まるで自分の意思が無いみたいだ。

 けれどニジナはそんなシロガネのことを思う。

 少しはシロガネのしたいように配慮を回す。


「それじゃあシロガネ、どっち行きたい?」

「えっと、こっち?」


 ファントラの森は特殊なダンジョンだ。

 ファントラの“ファン”はファンタジーのファン。

 と言うのも、出入りする度に微妙に形が変わるので、とても面白い。

 今日は右と左のルートがあり、シロガネに委ねると、右側を選択した。


「それじゃあ行ってみよっか」

「うん。そう言えば、ニジナ」

「なに?」

「このダンジョンはよく出入りするんだよね? 危険じゃないの?」


 シロガネは今更だがニジナに訊ねた。

 するとニジナは迷わずに答える。

 そう、一切包み隠さず、ストレートに危険を伝えた。


「うん、このダンジョンはよく出入りするけど、モンスターのレベルも高いから危険だよ」

「えっ、それじゃあどうして?」

「このダンジョンはほとんど人が出入りしないから、狩場に丁度良いんだ。経験値を稼がないとレベルは上がらない。経験を積まないとスキルは手に入らない。それなら、少しでも効率がいい方が楽しいし、面白いでしょ?」


 ニジナは“効率”という言葉を持ち出した。

 もちろん一理も二理もある。むしろシロガネもそれ以上口出しする気は無い。

 なにせ、シロガネ自身楽しんでいたので、何も文句は無かった。


「あっ、でもね。このダンジョンは他のダンジョンと違って、罠もたくさんあるから気を付けてね」

「罠?」

「うん。ファントラの森には色んな面倒な罠が生成されるから、気を付けて進もう。でも、気を付けて進めば、その内スキルも手に入って慣れるから、楽しいけど……シロガネ?」

「罠って、コレ?」


 ファントラの森には罠がたくさんある。

 ニジナは気を付けることを勧めると、シロガネは立ち止まる。

 薮の中に何かあるのか、シロガネは視線を奪われ、指を指していた。


「どれどれ……あっ、これはランダムポータルだね」

「ランダムポータル?」

「うん。触れると、ランダムな場所に転移……シロガネ!」


 シロガネはニジナの説明中に転移装置ポータルに触れた。

 すると体が白い光に包まれる。

 このままだとランダムで転移する。そう思った瞬間、ニジナも手を伸ばしシロガネに触れた。


「「うわぁ!」」


 シロガネとニジナの姿は青い光に包まれる。

 粒子が体を纏うと、そのまま視界が奪われる。

 逃げ道を奪われると、後は流れに身を任せ、シロガネとニジナの姿が消えた。



「ううっ……」

「さ、寒いね」


 シロガネとニジナは気が付くと、森の中には居なかった。

 しかも温かい森とは全くと言っていい程繋がりが無い場所。

 周囲を見回すと、一面の銀世界……否、白銀の吹雪だった。


「まさかこんな所に転移しちゃうなんてね」

「ごめんなさい」

「いいよ……とは言えないかな。もう少し慎重に行動しないとね」

「ごめんなさい」


 シロガネはニジナに説教された。

 ネチネチとはしていないけれど、シロガネの無感情の心にチクチク突き刺さる。


 それだけ過酷な環境に飛ばされてしまった。

 まさかこんな場所にランダム転移してしまうなんて。

 シロガネもニジナも想定外だった。


「どうするの、ニジナ?」

「とりあえず、HP〇になれば、強制的に街には戻れるけど」

「……ダメ?」

「自決なんて真似、絶対にダメ。そんなことしたら、どんなペナルティがあるか、分からないからね」


 PCOには様々なペナルティが存在する。

 もちろんその中には、強制ログアウトも含まれる。

 だから極力負けたくない。ましてや自決なんて真似、絶対に許されない。


「それじゃあどうする?」

「うーん、転移送置を見つけるしかないかもね」

「何処にでもある?」

「何処にでもは無いよ。だからさっきから探しているんだけど……」

「見つからないね」


 一面が雪の世界。ましてや吹雪だ。

 雪に埋もれているような転移装置を見つけ出すことは困難。

 いや、敢えて言おう。不可能だった。


「とりあえず、何処かに避難しよう」

「何処かに?」

「うん。適当に洞窟を探せたらいいんだけど……」


 残念なことに騒動靴は見つからない。

 けれどくまなく視線を右往左往し続けると、シロガネが指を指す。


「あれは?」

「あれ? あっ、洞窟かも。ナイスだよ、シロガネ」

「これくらいは、汚名返上」


 シロガネは洞窟らしき場所を見つける。

 遠くの方に山があり、穴がポッカリ空いている。

 あそこなら隠れられるかもしれない。善は急げと、シロガネとニジナは雪を掻き分け、ひたすら走る。


 顔に吹雪がぶつかり、寒々しい。

 風も出て来てこのままだと凍える。

 ステータスに体温下降の表示が出ると、足早になりながら、固まってしまいそうな体を動かし続けた。

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