第3話 ここがゲームの世界?

「ううっ……ん?」


 シロガネが目を開けると、広がっていたのは見知らぬ景色。

 目の前には噴水があり、水飛沫が舞う。


 シロガネの肌に、水が触れた。

 ソッと服が透けると、周りからの視線が痛い。


「ん?」


 シロガネは注目を浴びた。

 特に男性からの視線が痛い。

 首を捻りつつも、自分のみに起きていることを悟ると、一応隠そうとする努力を見せた。


「あっ!」


 とは言え隠すものもない。

 空いていたベンチを見つけると、腰を落ち着かせる。

 ただ黙って空を見つめていると、あまりのリアリティに、呆然とする。


「ここがゲームの世界? 本当に?」


 頭の上にはてなが浮かんだ。

 正直、舐めていた。まさかここまでリアルなんて想像も付かなかった。

 しかし実際に確認してみると、もはやここは現実だ。ファンタジー色が強く、西洋の色が濃い以外に、現実との境が存在していなかった。


「凄いな、今のゲームって」

「そうでしょ、透」


 目の前に誰かやって来た。

 シロガネの本名を知っているだけではなく、適切な返しをする。

 そんな真似ができるのは、シロガネを知っている人物以外にあり得ない。


「その声、嘉那?」

「そうだよ、透」


 シロガネは顔を上げた。

 そこに居たのはシロガネの見知った顔立ちの少女。

 しかし髪や目の色は異なっていて、シロガネが履く銀色なのに対し、嘉那の場合は髪の色が黒をベースに、黄色と緑のツートンカラー。瞳にも黄色と緑のハイライトがあり、かなり特徴的だった。


「本当に、嘉那?」

「そうだよ、透。あっ、こっちでの私は、ニジナだけどね」

「ニジナ?」

「そう。虹崎のニジと嘉那のナでニジナ。透は?」

「私はシロガネ」

「……ん?」


 ニジナは首を捻った。

 今、何を言った? 頭の中で冷静に処理するも、シロガネは変らない。


「私はシロガネ。ダメ?」

「ダメって、本名にしちゃったの!?」

「うん。ダメ?」

「だ、ダメってことは無いけど……ここゲームだよ? よかったの、それで?」

「うん。覚えやすいから」


 シロガネは一切の後悔が無い。

 むしろソレっぽいと思って、逆に心地が良い。

 しかしニジナは蟀谷に指を当てると、「まあいっか」と流すしかなかった。


「そんなことより、その格好なに?」

「格好? うわぁ!」


 シロガネは白いタオルを掛けられた。

 頭から覆われると、ニジナにワシャワシャされる。


「なにするの、ニジナ!」

「そんな薄い格好ダメに決まっているよ。シロガネだって、女の子なんだよ。もっと周りからの視線を気にして」

「……気にしたつもりだけど?」

「足りない足りない。シロガネ、その辺の子に比べて何倍も顔もスタイルもいいんだから。もっと自覚持って」


 シロガネはニジナにいいようなおもちゃにされた。

 抵抗する訳にも行かない。むしろできない。

 ニジナには頭が上がらず、単純にタオルでゴシゴシされると、ニジナから服を手渡された。


「はい、これ」

「なに、これ?」

「インベントリから替えを出したから、着直すよ」

「着るの?」

「着るに決まってるでしょ? はい、行くよ」


 シロガネを連れ、ニジナは噴水広場から離れる。

 タオルを巻かれたままのシロガネは、逆に注目の的になる。

 とは言え恥ずかしいことは無い。無表情で噴水広場を離れると、とりあえず着替えられそうな場所を探した。



「よいしょっと」

「ふぅ。なんとかなったね」


 シロガネは服を着替えた。

 ニジナが代わりに濡れた服を回収すると、インベントリの中に突っ込む。


「ごめん、ニジナ」

「いいよ、いいよ。それより、シロガネ。どう、感想は?」


 早速シロガネに感想を訊ねる。

 シロガネはそう言われ、やはり悩む。

 眉間に皺を寄せ、空を見上げる。門出に丁度良い、綺麗な青空が澄んでいる。


「うん、いいよ」

「よかった。少しは笑顔が出たね」


 シロガネの顔色は良かった。

 それを見て、ホッと胸を撫で下ろしたニジナ。

 まるで子供をあやすお姉さんの様。

 シロガネとニジナの関係をそう比喩すると、ギラリと太陽が陽射しを浴びせる。


「うっ、眩しい」

「そうだね。……おっ」


 その瞬間、太陽の陽射しが、シロガネの髪を焼く。

 ギラリ光が反射すると、輝きを放つ。

 ニジナはそんなシロガネが美しく映ると、親友としてウットリ笑みを作った。

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