第2話 キャラメイクの時間
「ゲーム…ゲーム……ゲーム?」
透はとりあえずVRドライブを買って来た。
嘉那に貰ったゲームコード、プレシャスコード・オンライン。
二つを手にすると、ボーッと覇気も無く眺めていた。
「一緒に遊ぼ! これならきっと、透も楽しめるかもしれないよ!」
頭の中で、嘉那の言葉が繰り返される。
“楽しめる”。その言葉に引っかかった。
「ゲームは楽しいもの……だよね?」
虚な瞳でゲームコードを登録する。
ネット上にアップされた説明書通り、初期設定は終わらせた。
今すぐにでもゲームは始められる。
透はVRドライブを装着すると、早速遊んでみた。
「ここは……?」
透は気が付くと、知らない空間にいた。
真っ白な世界が広がっている。
ボーッと立ち尽くしてしまうと、当然声を掛けられる。
「初めまして。私は、N・ナビゲーターのナナSと言います」
「ん? 私は、白銀透。よろしく」
現れたのは不思議な見た目をした少女。
何処かエキセントリックな、それこそ画面の中のアイドルのような格好をしている。
例えるなら電脳空間を棲家にするVのよう。
嘉那からの曖昧な知識で想像すると、ナナSは口を開く。
「それでは、キャラメイクを始めます」
「キャラメイク?」
「キャラメイクとは、この世界における貴女自身。アバターと呼ばれるものを作成する行為です」
淡々と説明された。
変にテンションが高くなくて、透としては親近感を覚える。
もちろん、透もテンションが高い人が嫌いなわけじゃない。
ただ何となく、似たような雰囲気を感じられた。
「キャラメイクってどうしたらいいの?」
透はナナSに訊ねる。
するとナナSはニコッと笑みを浮かべた。
手元で指を弾くと、透の前に手型が現れる。
「これはなに?」
「そちらの手型に利き手を置いてください」
「利き手? はい」
透はあまり警戒もせず、手型に手を当てる。
するとピーピーピーピーと電子音が響く。
ピコンと透の頭に電球が点ると、少しだけ危惧する。
「なにかマズいことした?」
「いえ、問題ありませんよ。解析が終了しました」
ナナSがそう答えると、目の前にグラフが現れる。
これは一体? 透が瞬きをすると、ナナSは答えた。
「そちらは白銀透さんのパラメータをステータスとして表示したグラフです。これをステータスバーと言います」
「ステータスバー?」
「はい。数字を見てください……一般的な方と比べ、基礎値が高いですね」
「そうなんだ」
透にはまるでピンと来ない。
しかし褒められているのは伝わる。
少しだけ口角を上げ、自信を付けると、透は次の指示に従う。
「次は武器を選択してください。無難なものは剣ですね」
「武器? あー、じゃあ剣で」
「いいんですか? 即決ですよ」
「いいよ、なんでも」
透は淡々と答える。
淡白というよりも興味が無いのか、素早くことが進む。
ナナSも呆然とする中、次の項目だ。
「それではキャラメイクを行います。まずはプレイヤーネームを決めてください」
「プレイヤーネーム?」
「この世界における、貴女の名前です。できるだけ、現実のものとは区別してくださいね」
そんなことを急に言われても困る。
透はまるで考えていない。
しかし腕を組んで頭の中で考えると、答えは決まった。いや、如何でもよかった。
「それならシロガネ」
「えっ?」
「シロガネでいい」
「それは、貴女の本名ではないですか?」
「そうだけど、ダメ?」
「ダメではないです。ですが身バレの危険性も……」
「大丈夫。私のこと、誰も興味持たない。それに危険になる前に、なんとかするから」
「な、なんとか? 分かりました。では登録します」
「ありがとう」
淡々とした会話の中で、透の一面を見たナナSはそれ以上の深追いはしない。
もちろん、透自身も冗談のつもりだった。
しかし単なる冗談には思えないトーンだったせいか、勘違いが起きたらしい。
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