【S.PCO】結論:デバフ装備で夢想中。〜呪いの剣しか装備できないけれど、《白銀剣姫》と呼ばれ一人無双しました。

水定ゆう

一章 《白銀剣姫》がPCOにやって来た

第1話 情熱の無い金メダル

 栄光の舞台。

 それは誰もが憧れるステージではあるが、ごく限られた人しか辿り着けない特別な場所でもある。


 そこに辿り着くために、人は努力する。それこそ、血の滲むような努力だ。

 全身の血がたぎり、他の全てを犠牲にしてでも辿り着き来たいと願う。


 故に過去に散って来た人達が何人もいる。

 倒れて来た人の上を、渡り歩いてここに居る。


 誰からの声援か、それとも夢や希望の類か。

 なににせよ、目的を持ち、目標があったからこそ、この場に居る誇りを胸に宿す。


 それが一般的。当たり前のこと。

 選手とは期待を背中に背負った存在。

 そう思って不思議は無く、どれだけ他人に期待され、罵られたとしても、それでも勝つために研鑽を積む。


 なのだが、それをせずに来た人が居た。

 そう、彼女はまるで気概がない。情熱もない。にもかかわらず、期待を背負ってここに居た。


「ふはぁー、眠い」


 大きな欠伸を掻くと、隣には自分よりも背が高く、発達した筋肉を持った女子選手が居た。

 目の前には幾つもの凸凹の突起が付いた壁がある。

 ここまでなんかい上ったのか分からない。正直も飽きた。

 彼女は退屈そうに見上げると、ワイヤーに吊られた少女は、スタートの合図を待つ。


「決勝か。やっと終われる……でも勝ったら、嘉那喜んでくれるかな?」


 天井を見上げると、とても高い。

 ギラギラと眩しい照明が痛く、幾つものカメラが回っている。

 少女はボーッと眺めると、電子音が聞こえた。


「登れば終わる。せーのっ!」


 少女は壁を登った。

 長い手足と、細くて軽い体で、軽やかに駆け上がる。

 凸凹の凹凸ブロックを手に掛けると、それはもはや次元が違っていた——



『速い速い、白銀一気に駆け上がる。これは人間技なのか、まるで鳥の様だぞ! こんな技、見たことも無い。さぁ、グングン駆け上がり、今ゴール! 金メダル、金メダルだ! 十六歳、白銀透、今大会初出場ながら、圧巻のクライミングで制した!』


 テレビに映像を映し、過去の栄光を見届ける。

 何度見ても圧巻。もはや人間の域じゃない。

 にもかかわらず、当の本人は無関心だった。


「この時の透は輝いてたのに……どうしてこうなっちゃったの?」


 ふと、溜息を付いたのは、白銀透しろがねとおるのお馴染みで隣の家に住んでいる少女、虹崎嘉那にじさきかな

 あたまに手を置きやれやれと仕草を見せるも、ベッドに座ってお菓子を食べる、透には届かない。

 むしろ、話は聞いているのに、まるで意識していない。ボーッと、遠い目をして観ていると、首を捻る始末だ。


「どうしたの、嘉那? 私、なにかした?」

「なにかしたじゃなくて……はぁ。透、あの頃の情熱はもう無いの?」

「情熱?」

「そうよ。あの頃の透は、もっと楽しそうだったでしょ?」

「そんなことないよ。私はただ、できることをしてただけ。そうしたら、上手く行った。ただ、それだけだよ」


 透は淡々と答える。覇気なんてものは一切無い。

 退屈そうにさえ見えてしまうと、嘉那はもう一度溜息を付く。

 同時に、視線を移動させる。

 透の部屋の中、棚の上に置かれた幾つものメダルやトロフィーに目をやる。


「あんなに賞を貰ったのに」

「ん?」

「埃が溜まってる。もしかして、掃除してない?」

「掃除? 床にゴミは落ちてないと思うけど」

「それは分かってるけど……本当に、興味の“きの字”も無いのね。案の定よ」


 透の部屋に置かれた棚。その上には、いくつもの大会を総なめにしてきた証拠が飾られている。

 けれどそれは過去の栄光だ。ましてや透自身、一切興味が無いらしい。

 埃が被って放置されていると、金メダルの輝きは情熱と共に、失われていた。


「透、大学生なのにやってみたいこと無いの?」

「別に無いけど? 毎日楽しいから」

「全然そんな風に見えないよ。もう、こうなると思った……だったら、私と一緒にしよ!」


 嘉那は手をスッと出す。

 透は首を捻るが、その手には四角い箱が握られている。

 長方形の形をしていて、受け取った透はポカンとする。


「これ、なに?」

「ゲームよ、ゲーム! 今話題のVRゲームで、一緒に遊ぼ、透」


 嘉那が手渡したのは、ゲームソフトだった。

 プレシャスコード・オンライン(通称:PCO)と呼ばれる、VRゲーム。

 専用のVRドライブを介することで、リアリティのある世界で冒険できる、夢の詰まったファンタジーゲームだった。


「ゲーム? 私、ゲームはあんまりやらないよ。きっと嘉那に迷惑かける」

「大丈夫。なんなら私以外の子とも率先して遊んでくれたらいいよ」

「……できるかな?」

「うーん、それは透次第だけど、きっと大丈夫だよ。透は凄い子だから。まあ、私としては透にも情熱を取り戻して欲しいんだけどね」


 嘉那は透のことを心配する。なんだかお姉さんのような立ち振る舞いだ。

 透自身も、そのことに気が付いている。

 けれどゲームか。あまり興味は無いけれど、誘われた以上やってみる。

 透自身に断る理由は一切無いので、とりあえず楽しんでみることにした。

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