第18話 消えた男 8

シャーロック・ホームズとジョン・ワトソンは、コルフィールドが支配する倉庫で手に入れた証拠を基に、次なる目的地へと足を急いでいた。すでに夕暮れが迫り、村全体は静寂の中に包まれつつあったが、ホームズの頭の中では、トマス・ペンフィールドがどこに監禁されているのかという謎が次第に解かれつつあった。


「ワトソン、時間がない。トマスはまだ生きているが、奴らが動き出す前に彼を見つけ出さなければならない。」

ホームズは険しい表情で言った。彼の声には焦りが混じっているようだったが、決して冷静さを失うことはなかった。


「だが、ホームズ。コルフィールドの部下がどこにトマスを監禁しているか、確実な手掛かりはまだないのでは?」

ワトソンは歩調を合わせながら尋ねた。


「確かに、確実な手掛かりはない。しかし、我々には十分な情報がある。トマスがどこに隠されているのか、それを示す痕跡がすでに現場に残されていたんだ。」

ホームズは冷静な口調で答えながら、雪に覆われた道を急いで進んだ。


彼らが向かっていたのは、村のさらに外れにある古い納屋だった。村の住民たちにとってはほとんど忘れられた場所であり、過去に何度か倉庫として使われた後は放置されていた。しかし、ホームズはこの納屋が今回の事件において重要な役割を果たしていると推測していた。コルフィールドが逮捕された今、彼の部下がまだトマスを監禁している場所として最も適しているのがこの納屋だった。


納屋にたどり着いたとき、二人はその朽ちた外観を見つめた。納屋は木々に囲まれており、外からはほとんど目立たないように隠されていた。雪が降り積もった地面には、わずかに足跡が残っていた。それは、ここに何者かが最近出入りしていたことを示していた。


「見てくれ、ワトソン。足跡が残っている。彼らはまだこの中にいるはずだ。」

ホームズは足跡を指しながら言った。


「間違いないな。では、我々も中に入ってトマスを救い出す準備をしよう。」

ワトソンは頷き、リボルバーを慎重に取り出した。二人は納屋の入り口に近づき、注意深く内部をうかがった。


扉を開けると、そこには薄暗い空間が広がっていた。納屋の中はひどく荒れており、古びた農具や木箱が無造作に置かれていた。風の音がわずかに響き、雪が納屋の隙間から入り込んでいた。その静けさは、不気味なほどの緊張感を漂わせていた。


「気をつけろ、ワトソン。彼らがトマスを守ろうとする可能性がある。」

ホームズは低い声で警告し、慎重に納屋の奥へと進んでいった。


しばらく進むと、納屋の奥からかすかな物音が聞こえてきた。それは何者かが鎖で拘束され、かすかな声で助けを求めているような音だった。ホームズは音の方向に向かってゆっくりと歩み寄り、ワトソンも後に続いた。


「トマスか…?」

ホームズはそっと声をかけた。


暗がりの中から、か細い声が返ってきた。

「助けてくれ…私はここにいる…」


その声は明らかにトマス・ペンフィールドのものだった。ホームズとワトソンはさらに進み、納屋の奥に設置された木製の椅子に縛りつけられたトマスを発見した。彼は疲れ果てた様子で、顔色も悪く、長い間監禁されていたことがうかがえた。彼の手足は鎖でしっかりと縛られており、逃げ出すことは到底不可能だっただろう。


「トマス・ペンフィールド?」

ホームズが確認すると、トマスは弱々しく頷いた。


「そうだ…私はここで何日も監禁されていた。コルフィールドが私を追い詰め、ここに閉じ込めたんだ。私は逃げ出そうとしたが、彼の部下に捕まって…」

トマスの声は震えていたが、彼がまだ生きていることに安堵している様子が見て取れた。


「安心しろ、トマス。今、鎖を外してやる。」

ワトソンはリボルバーを警戒しつつ、トマスの鎖を解き始めた。鎖が緩むと、トマスは力を振り絞って立ち上がった。


「ありがとう…ありがとう、ホームズさん…そして、ワトソンさん。」

トマスは弱々しくも感謝の意を示した。


その時、納屋の外から複数の足音が聞こえてきた。ホームズは即座に警戒し、ワトソンと共に扉の方に向かって身を隠した。


「コルフィールドの手下かもしれん。気をつけろ、ワトソン。」

ホームズは静かに言った。


納屋の外で声が交わされていた。どうやらコルフィールドの部下たちがトマスの様子を確認しに来たようだった。彼らはトマスがまだ監禁されていると信じているようで、納屋の中に入ろうとしていた。


「奴らを引きつけて、その隙にトマスを外へ連れ出すぞ。」

ホームズはワトソンに指示を出し、自分は納屋の暗がりに隠れて彼らの動きをうかがった。


扉が開くと、2人の男が納屋の中に入ってきた。彼らはトマスがまだ縛られていると信じている様子で、無防備に進んできた。その瞬間、ホームズが物陰から現れ、一人を素早く取り押さえた。


「動くな。」

ホームズの冷たい声が納屋に響いた。もう一人の男は驚いて振り返ったが、その瞬間、ワトソンが背後から素早く彼を抑え込んだ。


「これでおしまいだ。」

ワトソンが低い声で言った。


二人の男は完全に不意を突かれ、抵抗する間もなく拘束された。ホームズとワトソンは彼らを縛り上げ、納屋の外へと引きずり出した。そこで、すでに待機していたレストレード警部と警察官たちが、彼らを確保した。


「ホームズさん、トマス・ペンフィールドは無事ですか?」

レストレード警部が駆け寄ってきた。


「ええ、無事です。彼は少し疲れていますが、無事に救出しました。事件はこれで解決しました。」

ホームズは冷静に答えた。


「これで終わりですね。コルフィールドの部下も全員捕まえました。あなたの推理がなければ、彼らはもっと悪事を働いていたかもしれません。」

レストレードは感謝の意を込めてホームズに頷いた。


トマス・ペンフィールドは無事に救出され、コルフィールドの陰謀は完全に崩壊した。村に再び静寂が戻り、事件は解決の方向に向かっていた。

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