第17話 消えた男 7
ウィリアム・コルフィールドが警察に連行された後、シャーロック・ホームズとジョン・ワトソンは再び村に戻り、事件の全貌を整理するために、トマス・ペンフィールドが連れ去られた倉庫に向かっていた。彼らはコルフィールドの屋敷の裏手にある古びた倉庫を調査することで、さらに深い謎に迫ろうとしていた。コルフィールドが隠し持っていた計画や、トマスが彼に追い詰められた理由を明らかにするために、ホームズは確実な証拠を探し出そうとしていた。
「ワトソン、この倉庫が事件の最後のピースを提供してくれるはずだ。」
ホームズは冷静な表情で言った。
倉庫は外観からして古びており、長年使われていないように見えた。木製の扉は朽ちかけ、窓も割れている。しかし、ホームズはその朽ちた外観に一切動じることなく、倉庫の周囲をじっくりと観察し始めた。周囲にはまだ雪が積もっており、風が吹くたびに白い粉雪が舞い上がる。しかし、ここにはコルフィールドが何かを隠していたことは間違いない。
「さて、まずは中に入ってみよう。トマスがここでどのような状況に置かれていたのかを確かめる必要がある。」
ホームズはそう言って、朽ちた木製の扉を押し開けた。
扉がギシギシと音を立てて開くと、中は薄暗く、古い木箱や家具が無造作に積み重ねられていた。倉庫内には長年の埃が積もり、かつてここで何かが行われていたことを感じさせた。しかし、ホームズの鋭い眼はすぐに異常な点に気づいた。倉庫の奥にある床板がわずかに持ち上がっていることに気づいたのだ。
「ここに何かが隠されているな。」
ホームズはつぶやき、ワトソンに合図を送った。
二人は倉庫の奥に進み、持ち上がった床板を慎重に調べ始めた。すると、そこには隠し扉が隠されていた。ホームズはその扉を慎重に開け、内部を覗き込んだ。隠し部屋のような空間があり、そこには小さな机と椅子が置かれていた。机の上にはいくつかの書類や手紙が散乱しており、壁には古い地図が貼られていた。
「これは…」
ワトソンが声を上げた。
ホームズは机の上の書類を手に取り、注意深く目を通し始めた。それはトマス・ペンフィールドに関する詳細な借金の記録だった。コルフィールドがトマスを金銭的に追い詰め、彼を支配しようとしていたことがはっきりと書かれていた。さらに、トマスがこの借金の返済に苦しんでいたことや、彼が返済不能に陥った状況が克明に記されていた。
「ここにある書類は、すべてを物語っている。」
ホームズは書類をワトソンに手渡しながら言った。
「コルフィールドはトマスを金銭的に追い詰め、彼を完全に支配下に置こうとしていた。そして、トマスが反抗しようとしたとき、彼を消そうとしたのだ。」
ワトソンは書類を読みながら、徐々に事件の全貌が明らかになっていくことに驚きを隠せなかった。
「つまり、トマスはコルフィールドの策略に巻き込まれ、最後には命を狙われていたということか?」
「その通りだ、ワトソン。コルフィールドはトマスを利用して金儲けを企んでいたが、トマスが彼の支配から逃れようとしたことで、彼を排除する計画を立てた。トマスが消えた理由はそれだ。彼が何らかの手段で借金から逃れようとしたために、コルフィールドは強行手段に出た。」
ホームズは机の上の書類をさらに調べ続けた。
その時、ホームズの目に一通の手紙が留まった。それはトマスが書いたもので、コルフィールドに宛てたものだった。手紙には、彼がコルフィールドの支配から逃れたいという切実な願いが綴られており、これ以上コルフィールドに従うことはできないという決意が表れていた。
「この手紙だ。」
ホームズは手紙を持ち上げ、ワトソンに見せた。
「トマスはコルフィールドに反抗する意思を示していた。彼が姿を消したのは、その決意の表れだった。しかし、コルフィールドはそれを許さなかったのだ。」
ワトソンはホームズの推理に感心しつつも、次の疑問を口にした。
「では、トマスは今どこにいるのだ?彼がこの倉庫に連れ去られたとして、その後どうなったのか?」
「それこそが次の課題だ。だが、コルフィールドはトマスを完全に消すつもりだったわけではない。彼はトマスを隠し、彼の存在を利用するために生かしておいた可能性が高い。」
ホームズは手紙を折りたたみ、ポケットにしまった。
「さあ、ワトソン。ここにある証拠は十分だ。次に我々がすべきことは、トマスの居場所を突き止め、彼を救い出すことだ。コルフィールドはトマスをどこかに監禁しているはずだ。それを見つけ出すのは時間の問題だ。」
ホームズは決然とした表情で言い、再び外に出る準備を整えた。
倉庫を出た二人は、冷たい風に再びさらされながら、トマスの行方を追う手掛かりをさらに探し続けた。村の静けさは、次第にホームズの頭の中で組み上がっていく事件の全貌に飲み込まれていくかのようだった。
「我々は、コルフィールドがどこにトマスを隠しているかを特定しなければならない。おそらく、彼が支配している場所か、村の外れにある別の倉庫が考えられるだろう。」
ホームズはさらに推理を続けながら歩き出した。
「しかし、ホームズ。コルフィールドが逮捕された今、彼の部下がまだトマスを監禁している可能性は?」
ワトソンは不安そうに尋ねた。
「その可能性はある。だが、我々が急げば、まだ間に合うはずだ。トマスが無事であることを祈りつつ、次の手掛かりを見つけるしかない。」
ホームズは一歩も譲らぬ姿勢で答えた。
そして、ホームズとワトソンは、コルフィールドの影響下にあるとされる別の場所へ向かう準備を整え、事件の最終的な解決に向けて動き出した。トマス・ペンフィールドの命を救い出すため、時間との戦いが始まったのである。
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