第16話 消えた男 6
シャーロック・ホームズとジョン・ワトソンは、トマス・ペンフィールドの家の裏手にある木々の間を慎重に進んでいた。ホームズが見つけたわずかな手がかり—屋根を使って移動し、足跡を残さずに消えるという大胆な計画—を解明し、二人は次の目的地へ向かっていた。彼らの目標は、ウィリアム・コルフィールドという男だった。
ウィリアム・コルフィールドは村でもよく知られているが、決して好かれている人物ではなかった。表向きは投資家として活動していたが、村の住民たちは彼の裏の顔を知っていた。彼は多くの人々に金を貸し付け、その返済ができなくなると冷酷な手段で回収する。トマス・ペンフィールドも、何らかの理由でコルフィールドの手に落ち、失踪に巻き込まれたとホームズは推測していた。
「ワトソン、コルフィールドは表向きは清廉な人物だが、裏では借金で人々を縛り付け、支配しようとしている。おそらく、トマスは彼に利用され、最終的には消される運命にあったのだろう。」
ホームズは冷静に話しながら、村の外れにあるコルフィールドの家を指差した。
コルフィールドの家は村の端に位置しており、広大な敷地に囲まれた立派な屋敷だった。豪華さが漂うが、どこか陰鬱な雰囲気をまとっていた。周囲の木々も密集しており、まるで外部の世界と隔絶された場所のように感じられる。その家の前には馬車が止まっており、コルフィールドがすでに屋敷内にいることを示していた。
「さあ、ワトソン。彼に会いに行こう。」
ホームズは低い声で言い、ゆっくりとコルフィールドの家の玄関に向かって歩き出した。
二人がドアを叩くと、少しして扉が重々しく開いた。現れたのは、コルフィールド自身だった。背が高く痩せた体躯に、冷たい目をした男だった。彼はホームズとワトソンをじっと見つめ、表情を変えずに言った。
「おや、シャーロック・ホームズさん。こんな辺境の村までお越しいただくとは、光栄ですな。しかし、どういったご用件でしょうか?」
彼の声には皮肉と冷淡さが含まれていた。
ホームズはその視線を全く動じることなく受け止め、静かに答えた。
「お話したいことがありましてね、コルフィールドさん。最近、トマス・ペンフィールドという人物が失踪したことはご存知でしょう。」
コルフィールドの顔に一瞬の驚きが走ったが、すぐに冷静な表情を取り戻した。
「ええ、もちろん知っています。彼は村でも尊敬されている人物でした。しかし、彼が失踪したことに私が何か関係しているとおっしゃるのでしょうか?」
彼の口調は挑発的だった。
「関係があるかどうか、あなたに直接お聞きしたいと思いましてね。」
ホームズは微笑を浮かべながら言った。
「あなたとトマスは最近よく話し込んでいたようですが、彼に何か不利な取引を持ちかけたのではありませんか?」
コルフィールドはその言葉に目を細め、わずかに口元を歪めた。
「ホームズさん、私が彼にどのような取引を持ちかけたか、そんなものは重要ではありません。彼が自ら何らかの事情で姿を消した可能性だってある。いちいち私を疑うのは不躾ではないか?」
彼の声は鋭さを増していた。
ホームズはさらに一歩踏み込むように言った。
「コルフィールドさん、村の住民たちはあなたが借金を通じて人々を支配し、彼らを脅迫していることを知っています。トマス・ペンフィールドもまた、あなたに何らかの形で追い詰められていた。そして、その結果として彼は姿を消したのです。あなたがこの事件に何らかの形で関与していることは明らかです。」
コルフィールドの表情が一瞬硬直した。しかし、すぐに冷笑を浮かべ、言い返した。
「シャーロック・ホームズともあろう方が、そのような憶測だけで私を追及するとは驚きですな。証拠はどこにあります?もし私が関与しているというのであれば、しかるべき証拠を提示していただけるのでしょうな?」
ホームズはその挑発に冷静に応じた。
「証拠ならすぐに示すことができます。たとえば、あなたの屋敷の裏手にある倉庫。そこにはトマスが何者かに連れ去られた証拠が残されているのではないですか?屋根を使って足跡を消し、密かにこの場所まで連れてこられたのです。」
コルフィールドの顔に明らかな動揺が走った。ホームズの鋭い推理が彼の裏の計画を暴露していたのだ。彼は口を開いたが、すぐに言葉を失い、次の瞬間には冷たい目でホームズを睨みつけた。
「どうやら、あなたはすべてを知っているようですね、ホームズさん。」
コルフィールドは重々しく言った。
「しかし、あなたがここで何をしようとも、私には関係のないことです。この屋敷は私のものであり、あなたに手出しする権利はありません。」
ホームズはその言葉に動じることなく、ワトソンに合図を送った。
「ワトソン、警察を呼んでくれ。レストレード警部にも、彼らが来る頃にはすべての証拠を揃えておくように。」
ワトソンはすぐに行動を起こし、コルフィールドの屋敷の外へと向かった。警察が到着するまでの時間を計算しながら、ホームズはコルフィールドを鋭く見つめ続けた。
「あなたがトマス・ペンフィールドを消そうとした理由は、おそらく彼が何かを知りすぎたからでしょう。しかし、あなたの計画はすでに崩壊しています。私はすべてを理解しました。すぐに、法の裁きを受けることになります。」
ホームズの声は冷たく、鋭さを増していた。
コルフィールドはしばらくの間、黙り込んでいたが、やがて疲れたように溜息をついた。
「お見事です、ホームズさん。あなたには到底かなわないようだ。しかし、私がやったことは正当な理由があったのだ。トマスは裏切った。彼は私に借りがありながら、それを裏切ろうとしたんだ。」
ホームズは無表情のまま、コルフィールドの言葉を聞いていた。
「その理由がどうであれ、あなたが人を操り、消そうとした事実は変わりません。あなたの罪は、これから裁かれるでしょう。」
その瞬間、屋敷の外で警察のサイレンが響いた。レストレード警部とその部下たちが到着し、屋敷の中へと駆け込んできた。
「ホームズさん、こちらはお任せください。」
レストレード警部は短く言い、部下にコルフィールドを拘束させた。
「コルフィールドさん、あなたはトマス・ペンフィールドの失踪に関与した容疑で逮捕されます。すべてを話していただくことになります。」
レストレードは冷静に言い放った。
コルフィールドは抵抗することなく、警察に連行された。彼の計画はすべて崩れ去り、事件は一歩解決に向かって進んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます