第10話 霧の中の声 10

倉庫の表ではレストレード警部と警察官たちが捕えた男たちを連行している一方、ホームズとワトソンは倉庫の奥深くへと進んでいた。ホームズの鋭い目は常に周囲を観察し、その手には警察が押収した一部の書類が握られている。


「ホームズ、もう彼らは捕まった。これで事件は解決だろう?」

ワトソンが不安そうに尋ねた。


ホームズは立ち止まり、倉庫の薄暗い奥に目を向けた。

「ワトソン、これで終わるはずがない。彼らがこの程度の証拠だけで終わるような人間ではない。もっと大きなものが隠されている。私が感じているのは、その気配だ。」


倉庫の奥にはさらに古びた扉が見えてきた。それは倉庫の他の部分とは違い、明らかに時を重ねているが、誰にも触れられていないような雰囲気を醸し出していた。


「これだ…」

ホームズは静かに言いながら扉に手をかけた。錆びた金具が軋む音を立て、扉がゆっくりと開く。中に広がっていたのは小さな部屋で、まばゆい光を反射する何かが棚の上に置かれていた。


「これは…?」

ワトソンが驚いて声を漏らした。


棚の上には、古びた宝箱のようなものが置かれていた。その箱には複雑な装飾が施されており、見る者に強い印象を与える。ホームズは慎重に箱に近づき、指で軽くなぞりながらその鍵穴を見つめた。


「この箱はバルドレッド家の最も重要な秘密が隠されているものだろう。おそらく、彼らが長年守り続けてきた『遺産』だ。」

ホームズはつぶやき、ポケットから道具を取り出した。


ワトソンが息を潜めて見守る中、ホームズは器用な手つきで箱の鍵を解錠した。カチリという音が響き、箱の蓋が開かれる。中に入っていたのは、一冊の古い日記帳と、いくつかの手紙だった。


「これは…バルドレッド家の当主の日記帳か?」

ワトソンが興味津々に聞いた。


「そうだろう。」

ホームズは日記帳を開き、慎重にページをめくって内容を読み始めた。その中には、バルドレッド家が行ってきた数々の不正取引、暗殺計画、そして彼らが貴族社会の中でどのように影響力を広げてきたかが克明に記されていた。


「これで全てが繋がった。」

ホームズは日記を閉じ、ワトソンに向かって静かに言った。


「彼らはこの日記に記された秘密を守るために、あらゆる手段を講じてきた。これが外に漏れれば、バルドレッド家だけでなく、関係する多くの貴族や富豪たちもその地位を失うことになる。だからこそ、彼らはアデリーヌの妹を消し、この証拠を隠そうとしていたんだ。」


ワトソンは深く息を吐き、ようやく全貌が見えてきたことに安堵を感じた。

「これで、彼らの陰謀はすべて暴かれるな。あの男たちはこれを隠すためにどれほど多くの罪を犯してきたことか…。」


「その通りだ、ワトソン。これで事件は終わりを迎える。」

ホームズは日記をポケットにしまい、扉の方へと向かった。


「レストレード警部もこれを見れば納得するだろう。バルドレッド家の影響力はここで完全に終わる。」

ホームズはそう言いながら倉庫を出た。


外では、レストレード警部が男たちを連行し、車に押し込んでいた。ホームズが現れると、レストレードは笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。


「ホームズさん、これで奴らも終わりだ。お前さんの推理は完璧だったな。」

レストレードは満足そうに言った。


ホームズは静かに頷き、ポケットから日記帳を取り出した。

「これが彼らの最後の証拠だ、レストレード警部。この中には彼らのすべての悪事が記されている。これを公にすることで、彼らは完全に終わるだろう。」


レストレードは驚いた表情で日記帳を受け取り、中を確認し始めた。ページをめくるたびに彼の顔は次第に険しくなり、やがて深い息を吐いた。


「すべてが明るみに出る…これでロンドンの貴族社会にも大きな波紋が広がるだろう。ありがとう、ホームズさん。」

レストレードは感謝の言葉を口にし、ホームズとワトソンに感謝の握手を求めた。


「我々は自分の役目を果たしただけだ。だが、この事件はロンドン全体に影響を与えるだろう。しっかりと処理することが必要だ。」

ホームズは穏やかに言った。


夜が明ける頃、ロンドンの街は静かに目を覚ましつつあった。霧が晴れ、事件の全貌がようやく明るみに出るとともに、バルドレッド家の影響力は消え去る運命にあった。


次回予告

「消えた男」がスタート

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