第4話 それぞれの場所を示す地図

男は魔法道具売りだった。

道を尋ねようと話しかけてみると、突然男は予想通りだったと言わんばかりに流暢な口調で喋り始めた。


「どうもルイス様。私は魔法道具に関する物を売って歩いている者です。貴方は旅人ですね?聞きたい事は分かっています。丁度ピッタリな商品がございます」


魔法道具売りには何度か会って来たが、毎度喋らなくても相手の事情を察して話を進めてくる。

その為基本的に自分から喋る必要がない。

多分これは魔法道具売りとして相手の考えを読んで見せることで、扱っている商品の信憑性を高めようとしているのだろう。


「これです。これは見た目通り地図ですが、勿論ただの地図ではございません。これは持ち主が今一番行くべき場所が記してある地図なのです。つまりは人によって目的地が変わる地図ということです。一回地図に記された目的地に着くと、また次の行くべき目的地が記されます。終わることのない永遠の旅、不死身の貴方にピッタリでしょう?勿論満足してもらえる事は保証しましょう。実際私が貴方を見つけたのもこの地図のお陰なのです、この地図は貴方を欲しているのです。貴方が持ち主になって欲しいと。なので道具売りとしては失格かも知れませんが、この地図自身の意思という事で今回は無料でこれを差し上げます。ではまた会うこともあるでしょう」


魔法道具売りが嵐の様に商品を売っては去っていくというのは、毎度同じ事だが今回の様に無料で商品を渡されるのは初めてだった。

私はとりあえず地図を開いて、そこに記してある場所へ向かってみる事にした。

到着したのは賑やかな商店街だった。

ここで一体何をしろと?と思った瞬間に、今私の横を通り過ぎた男に話しかける事だと気がついた。


「ちょっとすみません」


「はい?どうかしましたか?迷子でしょうか?」


男は地図をくれた魔法道具売りとそっくりで、紳士の様に見えた。


「この地図って何が書いてあるのですか?」


正直私自身はこの男に地図の事を聞いて何があるのか全くわからないが、地図が私にそう聞けと指示してくる。

この男との会話に私の意識は一切ないと思ってくれていい。


「これですか、えーっと。これはこの先にある村ですね。案内しましょうか?」


「いえ、私はいいのです。貴方がこの場所に行ってはくれませんでしょうか?」


「自分ですか?何か持って来て欲しいものがあるとかですかね?それでしたら場所も近いですし、すぐに行って戻って来られますよ。一体何をご所望で?」


「その場所に行けばわかります。貴方の生から死までのこと、やりたいと思う事が見つかるはずです。貴方が私を助けたいと思っているのならば、どうかこの場所に向かって下さい」


「了解しました。何か詩的な事を言っているみたいで自分にはよくわかりませんが、とりあえず行ってみます」


私が(正確には地図が)この男に対して何をもたらしたのかよくわからないが、これが私の満足に繋がるのだろうか?

私は地図を見て次なる目的地に向かった。(念の為書いておくが、あの男が言っていた場所とは勿論違う場所だ)

そこに着いてみると次は広い畑だった。

私は周りを見渡してみると、突然なんの前触れもなく誰かが話しかけてきた。


「ルイス様ですね?あの時はありがとうございました。貴方に地図を渡した魔法道具売り及び商店街の紳士の様に見える男です。あの時貴方に言われた場所に行ったから今の私があるのです。改めて御礼を。混乱するのもわかります、その地図を渡したのは私です。そして今の私を導いたのはその地図を持った貴方です。勿論変装をして騙している訳ではありませんし、考えを読んで適当に冗談を言っている訳でもありません。ルイスさんに言われた場所へ入ってからどれぐらいの時が経ったのでしょう?ルイスさんにとってはさっきのことでしょうが。この謎を解くには、もう一回地図を見てから景色を見る事です」


私は混乱しながらも地図を見た。

そこには何も記されていなかった。

そして顔を上げて景色を見てみると、私は世界が地図と同化していることに気がついた。

地図は世界を記しているのではなくて、地図は世界を意味していたのだ。

私は世界が一つ以前の永遠に見え、それと同化した。

それが全て、それ自体が全て、それを含めて全て、それが全ての全て。

私は溜息をついた後、地図を破り捨てた。

既に男は居なくなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ルイスの仕事 砂糖鹿目 @satoukaname

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画