第3話 感情がコントロールできる場所
私キャロル•ボルヘスは久しぶりに旅らしく歩く事にしました。
道行く旅人はいつの時代だっていいことを教えてくれます。
「聞いて驚くな、凄い話があるんだ」
この男もその例に漏れず、私の次の目的地を丁寧に教えてくれました。
「なあ、一体なぜ人間は争うと思う?」
男は大量の荷物の物音を垂れ漏らしながら、必死に身振り手振りで言葉の重さと深さを表現しようと試みていた。
「うーん、人が人を傷つけ合うからですかね」
男は少し押し黙ってから、日と皺が刻み込まれた焼け肌を笑顔で歪ませた。
「間違いではないが問題はそれよりもう少し深い。それは感情があるからだよ」
「根本的に私もそう思いますが、それと場所の話に何の関係があるのでしょうか?」
「まあまあ、最後まで聞いてくれ。感情というのは我々が生存の為に残した潜在的な記憶だ、それが偶然か必然かは関係なくただ感情は情報として存在している。それが人間の運命を決めているのは理不尽だと思わないか?」
「ですが、感情を理不尽だと判断しているのも感情なのではないのでしょうか?」
「そんなデカルトじみた事を言ったってこの話は魅惑的さ。そこは感情をあるがまま、自分自身の意思でコントロールできるんだ」
「えっと、つまり。意識的に感情をコントロールできるという事ですか?今の様な無意識領域でのコントロールではなく」
「その通りだ」
「それだと問題が起きると思うのですが」
「それもその通りだ。さっき貴方が疑問で示した通り、感情は感情で俯瞰する事しかできない。故に私たちは感情で行動している。だがしかし我々の行動で感情を決定(コントロール)できてしまったらどうなってしまうのか?ということでしょう?」
「正にその通りです」
「それは実際見てみるといい」
そういった直後男は私と真反対の方向へまたゆっくりと歩み出し、広野の光に照らされながら風と音を共に連れてその場を去った。
ただ青空と緑の続く広野を進んでいくと、徐々に大きな門が現れ始めた。
それは国の物とも村の物とも思えない、中途半端に頑丈そうな門だった。
門に着いてみると、そこには一人の兵士が立っていた。
「お客さんでしょうか?関係者でしょうか?」
兵士は私の顔を見ると手慣れたような口調でそう言った。
「旅の者です」
「お客さんですね」
「あの、一つ聞きたいのですが」
「何でしょう?」
「ここら辺は何処かの国の所有地なのですか?私の知る限りここら辺は地図にも載っていなくて」
「ここら辺は国の所有地ではありませんよ。知られたら大変ですしね」
「ならなぜこの様な門を?貴方は兵隊ではないのですか?」
「まあ、それは中を見てみればわかりますよ。この先は感情を自分の意思でコントロールできます、それを考慮した上でここまで来たのですよね?」
「そうです」
「なら問題ありません。さあ、どうぞ」
残念ながらこの旅の記憶はここで終わっている。
この先の事は不思議なくらい一切覚えていない。
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