第2話 死後が体験できる場所

私ことキャロル•ボルヘスは最近見つけた居酒屋で、新しい友人ができました。

名前はスナーク今年25になる中々の美男だ、だが本人によると昔からの性格のせいで告白すらされた事がないらしい。

最初彼に放浪旅の話をせがまれ、酒場の仲だと思った私は。

試しに望み通り話してみると、彼はいつも何かしら面白い返事をしてくれた。

例えば時間が存在する場所について話すと


「昨日というのは夢の様に消えていく今日のことだろ?そして明日というのは夢の様に訪れる今日のことだろ?なら、今しか存在しないに決まってるじゃないか!」


と一言で返事をした。

これらの発言から私は彼を詩人だと思ったのだが、本人曰く哲学者らしい。

そうやってずっと話しを続けた結果、今彼と街を歩きながら話しをするまでに仲良くなっていた。


「それにしても、昨晩のあなたは酷かったですね。酒でベロンベロンになりながら、また酒を滝の様に飲み込んで。挙句の果てには何かを叫びながらその場にぶっ倒れるとは、これは美男なのにモテない訳です。あれはただの狂人でしたから」


「そのおかげで、酒場では有名人なのだがな」


「そりゃあそうですよ」


「そういえば、昨晩ルイスが聞いてきた面白そうな場所。やっと思い出した」


「よく覚えてましたね、少し関心です」


「そのまま惚れてくれたっていいんだぞ!で、その場所に関してなんだがなんとそこは死後の世界を体験できる場所なんだ」


びっしりとお店の立ち並ぶ道の中、彼の声が静かに響いた。

私は少し立ち止まった。


「冗談でも、余りこんなところで言うものじゃないですよ」


私は死に関して余りいい思い出がない。


「ルイス。これは冗談でもなんでもない、デマかもしれないが俺が知っている限り事実だ」


どうやら彼によると酒場でちょっと前までよく話題に上がっていたらしい。

哲学者である彼は気になったらしいが、行く勇気がなかったらしい。


「哲学者でも死後の世界は信じるんですね」


「信じている訳ではない、ただ確証がないだけだ」


そんな会話を途切れ途切れ余り話題も変わらず繰り返していた。

目的の場所が近づいてくると彼の話の途切れが徐々に長くなっていき、それと同時に霧が立ち込めて来た。

最後にはただ足音だけが聞こえる様になり、前がハッキリ見えなくなるほど霧が濃くなっていた。

そしてついにその場所に辿り着いた。


「すまない、やっぱりルイスだけで行ってくれないか?俺はどうしても恐ろしい」


「やはりあなたは、詩人の方が向いている様に感じますね」


「なんだ皮肉か?」


「いえいえ、なんなら私は哲学者より詩人の方が好きですよ」


励ましのつもりで言ったのだが、彼にとっては逆効果だったらしい。

私は黙ってその場所に踏み入ると、濃い霧の向こうで彼の固唾を飲む音がはっきり聞こえた。

それを最後に数分が経った。


「あれ?」


何も起こらなかったので、私はもっと先まで進んでみたが結局何も起こらなかった。

どうやらデマだったらしい。

私は少しホッとしながらスナークのいる方へ向かった。

濃い霧の中少し遠くに彼のシルエットがくっきり現れた。


「おーい、スナークさん!どうやらデマだったみたいです。何も起きませんでした!」


「えっ?ルイスか?え?どこなんだ?」


「ここですよ、スナークさん!」


私は手を振ってみたが、戸惑っている彼の様子がシルエット越しにわかった。


「ルイス?ルイスなのか?お前は死後の世界の住人じゃないだろうな?」


「そんな訳ないでしょ!私はここです!」


「やだ、やだ!許して下さい!まだ死にたくない!」


「そんな大袈裟な!」


「ヒェー!!」


その言葉を最後にスナークさんのシルエットは姿を消した。

その後何時間もその場を探してみたが結局見つからなかった。

私は友人を失ったショックで放浪者としては珍しく、3日も同じ土地に滞在して同じ酒場の酒を飲んでいた。


「おーい!ルイス!」


突然そんな声が聞こえて背後を振り返ると、なんとそこには平然とした顔でスナークさんが立っていた。


「えっ?スナークさん!?」


「まあ、驚くのも無理はない。だって死後の世界から帰って来たのだから」


「死後の世界へ行ったのですか?」


彼は隣に座ると態とらしくへの字口をみせてきた。


「冗談に決まってるだろ!とんでもないデマだったなぁ!」


「あぁ、やっぱりデマだったんですね。とりあえずスナークさんが無事でよかった」


さっきまでショックで酒を飲んでいたのに、いざ無事だとわかると何事もなかったかの様に酒が旨く感じてしまうのは歳のせいだろうか?


「と、言いたいところだが。もしかしたらデマでもないのかもな」


「と、言いますと?」


私は酒を飲むのをやめて彼の方を向いた。


「いや、実はな。あの霧の中で冷静に死というのはなんなのかを考えていたんだ。それで気づいたんだよ、死というのは構造の消失だ」


「構造の消失?」


「そう!例えば機関車は、鉄とか銅とかでできているだろ?そこに石炭を加えれば走り出す訳だろ?」


「まあ、そうですね」


「つまり元は鉄とか銅とか石炭の塊であってただそれらの物をポンポン適当に置いて機関車ができる訳じゃないだろ?つまり機関車にしてもしっかりと稼働する様に形を整えて、設置して動かす訳だ」


「そうですね」


「だがしかし、機関車が壊れたとしてもそれを俺らは死なんて呼ばないだろ?ただ機関車が鉄とか銅とかに戻るだけだ」


「はい」


「人間も同じなんだよ!魂とかどうたらというのは俺達が脳みそというタンパク質の一つの構造によって作り出した偶像に過ぎず、死んだ後脳みそはタンパク質に戻るだけだ!つまり構造が消失しただけだ!」


「つまり、死は壊れたに過ぎないと」


「そうだからつまりは、死後の世界なんて存在しないってことさ!ただ壊れたら構造が消失するだけ、あの場所はそんな意味が込められているんじゃないのか?」


「やっぱりあなたは哲学者というより、詩人に向いていますよ」

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