ルイスの仕事
砂糖鹿目
第1話 時間が存在する場所
私はキャロル•ボルヘス。
皆様からはルイスと呼ばれています。
私はいつ頃の事だか正確には覚えていませんが、多分今から1万年ぐらい前に永遠に生きていられる体を手に入れました。
それ以降、殆どの時間を旅に費やしています。
明確な目的がある訳ではなく、ただ単に移動をしているのです。
最近機関車という乗り物ができたおかげで、足を痛める事なく遠くまで旅ができるようになりました。
しかし機関車の中はやけに静かで暗いので、私はいつも考え事に飽きてきてくると誰これ構わず隣の席の人に話しかけるのです。
「そこの人、いいかな?」
「ん、何かな?」
その人は帽子を被った中年ぐらいの男で茶色のマントを上半身に巻いており、背が小さい。
その為、縮こまって丸まっているように見える。
「寒いのですか?」
「ハハハ、こんな緑生い茂った晴れの土地で寒いってことはないだろぉ」
私は窓から風景を見て言葉通りだった事を確認すると、一応首を縦に振って苦笑いを見せた。
この列車の中だと何故だか体幹が鈍くなるのだ。
「なら何故そんな分厚そうなマントを体に巻いているのでしょうか?暑くないのですか?」
「これはなぁ、これから仕事に使う道具を隠すためにマントを体に巻いているんだ。暑いことは百も承知だ」
「はぁ、じゃあ仕事というのは聞いちゃいけませんかね?」
「そりゃあそうだ、死んでも教えるつもりはないな」
「そこまでですか」
「ハハハ、流石に冗談だよ。だけど教える気はないな」
「ならいいんですが」
「なんだ?それだけか?」
「あ、いやいや。実は私、目的もなくただ旅をしている人間でして。この先に面白そうな場所とかありませんかね?」
男は少し上を向いてからこちらを見た。
「放浪旅ってことならこの先に丁度いい所がある。今から二駅先のサナヤという駅を降りてすぐのサヤナ村に時間が存在する場所があるんだ」
「時間が存在する場所ですか?」
「いまいちピンとこないのもわかる。そもそも俺達は時間が存在しているかの様に認識しているのだからな」
「つまり基本的に時間は存在しないってことですか?」
「そうだな、最低でも俺達が想像している様な時間は存在しない。そもそも現在というのは過去の消費によって成り立っている物なんだ、だから過去は勿論存在しないし未来も予測に過ぎないのだから存在しない。つまり今しか存在しないんだ、故に時間なんて存在しない」
「だけど、それだと何故私達は記憶を通して意思疎通をする事ができるんですか?それは過去が存在している事の証明ではないのでしょうか?」
「それは記憶だからだよ、過去は存在していた物だ。だけど記憶は今に存在している。だから過去がなくたって今記憶として過去を思い出す事ができるんだ」
「なるほど、確かにそうだ」
「記憶があるから俺達は今という存在の中で過去と未来を想像する事ができる。だがしかしそれは存在しないというだけの話だ、つまりこの世界は時間という存在が一つ流れているのではなくて、今が今を消費して今が成り立っているという事だ」
「なるほど、確かにそう言われれば時間は存在しない。だけどそうなると逆に時間が存在するというのはおかしな話になりませんか?」
「その通りだよ、時間が存在するということは。今以外に過去未来が存在する事になる
、そしてそれには明確に永遠か終わりかが存在する事になる」
「そうなると、どうなるのですか?」
男はニヤリとしながら答えた。
「さあ、知らないな」
それ以降その男と話す事なく、その問題の場所に到着した。
私はその場所に入ると"一瞬"にしてその場所を出てしまった。
何があったのかは、時間の存在しないこの文章で表そうとしても無駄なのだろう。
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