3日目(夕) バグってても、ポンコツでも

(夕方、玄関の扉がガチャッと開く)

(ほぼ同時に、アンドロイドが出迎える。淡々とした口調で)


「お帰りなさいませ、マスター。本日もお仕事、お疲れ様でした。予定よりお早い帰宅きたく休息きゅうそくの時間が増えるのはさいわいなことです」


「お風呂とお食事、どちらを準備いたしましょう。ワタシの行動を、選択してください」


「……いいえ、どちらも選択後に、準備いたします。お風呂も、お食事も、めてしまっては温めなおすコストがかかりますので」


「……マスター? どうかいたしましたか、マスター……」


(抱きしめられ、至近距離の声に。それでもあくまで淡々と)


「マスター、なぜ抱擁ほうようを? メンタル回復のため、接触せっしょくが必要でしょうか」


「かしこまりました。それではワタシも、抱きしめ返させていただきます。背中を、おさすりしましょう。よしよし、です」


「……えっ?」


(少し沈黙)


「……バグっていても、かまわない……ですか?」


(ビビッ、と電子的な異音)


「……マスター、発言の意図を、解しかねます」


「ワタシはマスターの生活をサポートするために存在する、アンドロイド」


不確定ふかくてい要素ようそはいし、余分よぶんな情報をはさまず、適切に行動する」


「それが、ベストのはず。それが、最適解さいてきかいのはず」


「ですのに」


(ガ、ガ、ガ、と異音)


「なのに」


(ガガッ、ザザッとノイズ音)


「それなのに……」


(ビーーーッ……と長い電子的な異音)


「本当に」


(アンドロイドの声に、感情がこもる)


「……いいんですか……?」


(『 』システム音声)

『一部機能、正常な動作を維持するため――プログラムを、ロールバックします』


(アンドロイド、涙声)


「こんな……エラーが起きて、機械のクセに感情なんてプログラミングしちゃって……バグっちゃったような……」



「こんな、ポンコツなワタシなんかでも……いいんですか……?」



「っ。う、うう……ううっ……」


(アンドロイド、すがり付いて泣きつくような距離感で)


「う、うわあぁぁぁんっ……マスター、マスター……ますたぁぁぁっ……!」


「ワタシ、ワタシ……ずっとマスターの生活、サポートしたいですぅ……!」


「ほんとに、いいんですか……?」


「こんな、ずっとマスターのことばっか考えて、頼まれてもないのに勝手に行動しちゃって……マッサージとか、お風呂とかで、変な失敗までしちゃう……」


「こんな、アンドロイド失格な、ワタシなんかでも……」




「バグデレしちゃった、ワタシみたいなポンコツでも、イイんですか……?」




「っ………」


「うあぁぁん……マスター、マスター……大好きですぅ……」


「ワタシ、ワタシ……」


「マスターと……ずっと、一緒にいたいですっ……!」


(泣き声、遠ざかるように収束していく)


「うえぇぇぇんっ……ますたぁっ……ますたぁぁぁっ……!」

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