3日目(朝) 生活サポート用アンドロイド

(0日目と同様の、電子的なシステム起動音が鳴り、続いて機械的な駆動音くどうおんが響く)

(アンドロイド起動、淡々たんたんとした平坦へいたんな口調で。一定の遠さを保つような距離感で)


「マスター、おはようございます。今日も一日、あなたの生活をサポートいたします」


「まずは洗顔せんがんし、身だしなみをチェックなさってください。その間に、いつも通り朝食の準備をしておきます」


「……どうか致しましたか? ワタシのフェイスパーツに、何かついておりますでしょうか?」


「何も、ですか……かしこまりました。それでは、ワタシは朝食の準備のタスクを実行してまいります」


(規則正しく包丁でまな板を叩く音。テーブルにコトンと皿を置く)


「朝の準備、お疲れ様でした。朝は手軽てがるに済ませられるように、とのことでしたので、本日の朝食メニューは、トースト、フルーツサラダ、スクランブルエッグ、ヨーグルト、以上です」


(スキャン音)


「栄養状態、バイタル値、共に良好です。現状を維持し、健全な生活を心がけていただければさいわいです」


(少しの沈黙)


「……ワタシの様子が、何かおかしくはないか、ですか?」


(ピピピ、とシステム音)


「いいえ、マスター。今現在、ワタシには、一切の問題は起こっていません」



「エラー、バグ、とう一切いっさい検知けんちされませんでした」


「ご安心ください」



(ピッ、と短いシステム音)


「……マスター、心拍しんぱくに少々の乱れが。いかがなさいましたか?」


「何でもない、ですか? ……かしこまりました、何か気にかかることなどございましたら、お申し付けください」


「では、そろそろ出勤のお時間ですね。少々スケジュールが押しておりますので、お急ぎください」


(バタバタと慌ただしい音の後、ガチャッと玄関の扉を開く)


「マスター、お忘れ物などは無いでしょうか。今一度、ご確認ください」


(少しの沈黙)


「……お昼の、お弁当、ですか?」


「申し訳ございません、生活サポートのスケジュールに、登録されておりません」


「ワタシは、生活サポート用アンドロイド」


「マスターの意思をかいさず、勝手にタスクを実行する権限けんげんは、持ち合わせておりません」



「バグでも起こらない限り」



「……昼食用のお弁当の製作せいさくを、スケジューリングに組み込みますか?」


「今はいい、ですか……かしこまりました。もし必要であれば、帰宅後にでも、登録をご検討けんとうください」


「それでは、マスター。スケジュールが少々押しておりますので」


「本日もお仕事、いってらっしゃいませ」


(玄関を開き、やや間があった後、閉める音)

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