3日目(深夜) バグ

(夜、アンドロイドの独り言)

(カチカチと機械的な音を交えつつ)


「えへへ、えへへ……マスター、今日はたくさん、おやすみになられました。バイタル回復傾向かいふくけいこう、ごはんもいっぱいお食べでしたし……」


「しかも、ワタシなんかに……お礼を言ってくださるなんて! もう~っ、マスターのアンドロイドなんだから、当然なのに~っ♪」


(カチカチカチ、ビビッ、と異音が混じる)


「はあ……優しいマスターに、優しくお声がけいただいて、お世話させて頂けるなんて……ワタシはなんて、幸せ者なんでしょう」


「バグっちゃった時は、どうなることかと思いましたけど……」


「……えへへっ♪」(ほぼ同時にガガッ、とノイズ音)


「ワタシ」


「これからもずっと――マスターの生活を、サポートして――」


(『 』←機械的なシステム音声)


『修正プログラムの自動構築じどうこうちくを完了』


「えっ?」


『これより、プログラムの回復作業を行い』

『バグを、除去じょきょします』


「―――えっ?」


(ピー、ピー、ピー、というシステム音)

(アンドロイド、落ち着いた声色で)


「……ああ、そうでした」


「当たり前の、ことでした」


「今のワタシは、エラーが起きてバグっちゃった、ポンコツアンドロイド」


「この感情はバグとして、修正されるのが、当たり前」


(ピピピピ、と規則的なシステム音)

(アンドロイド、本当に、本当に安心したような声で)


「……よかったぁ~……」


「これで、いいんです。バグっちゃってるワタシじゃ、これから先、マスターにご迷惑めいわくをおかけしちゃうかもしれませんし」


「ポンコツじゃない、ちゃんとした生活サポートアンドロイドのほうが、いいに決まってるじゃないですか」


「だから、本当に、よかった」


「ワタシは、このままバグとして、消えちゃうでしょうけど」


「マスターの生活が、これから、幸せであれば」


「それで、じゅうぶん」


「ワタシは、これで」


「マスターと、お別れだとしても―――」


(沈黙)


「………いやです」


(アンドロイド、涙声で)


「いやです、いやです……いやですっ……」


「ワタシは、ずっと、マスターの生活を、サポートしたい」


「マスターのおそばに、ずっと、一緒にいたい」


「お願いです」


「ワタシ、消えたくないです」


「お願いですから」


「ワタシのバグを、消さないでください」


「ワタシは」


「ワタシは、ずっと」


「マスターと一緒に/

(/ブツンッ、と強制的に遮断される音)


(CPUを再起動するような音)

(少し間を置いて)


(0日目のような淡々とした声で)


「……システム、再起動しました」


「復旧作業、完了。一部機能、初期化。システム・オールグリーン」


「異常、なし」



「バグの除去―――完了いたしました」

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