1日目(朝) アンドロイドのバグデレ生活サポート

(ビビビ、とやや異常なシステム音。アンドロイド起動)

(淡々ではなく感情のこもった、焦り気味の声)


「あ、あわわ、あわわわ……バグ、治ってないぃ……修正プログラム、ぜんっぜん起動しないし……ど、どうしよ、どうしよ~!?」


(少し遠い距離から、廊下を歩いてくる音)


「はっ、マスターの足音を検知けんちっ……と、とにかく、ワタシがバグっちゃってるなんて気付かれないよう、誤魔化ごまかさないとっ」


「いえまあマスターに隠しごととか、アンドロイド的に一線いっせんかくしちゃってる気もしますけどっ。ポンコツなんて思われたら、処分されて、そしたら……」


「マスターと、お別れになっちゃう……それだけは、イヤですっ!」


「さあ、いつも通り冷静に、淡々たんたんと、平坦へいたんに……!」


(ガチャッ、と扉を開く音)


「ま、マスターっ、おはようございましゅっ! 今日も一日、あなたの生活を精いっぱい、サポートさせていただきますっ!」


「……………………」(気まずい沈黙)


「ではあの、その……いつも通り朝の身だしなみチェックを……えっ? わ、ワタシの雰囲気ふんいきが、いつもと違う気がする、ですか?」


「きっ……気のせいですよ~! ワタシはアンドロイドですから! いつも通りのコンスタントなワタシです! えっ、喋り方とか? どもってる気がする、ですか?」


「いえあの、それはその、だから、えっと、アレですよ、アレ」



風邪かぜです」



「……………………」


「いえ違いますアンドロイドは風邪ひきませんし!?」


「その、アレです、これは、そう……ジョークです! アップデートでジョーク機能をダウンロードしました、システムアプリとして設定しますか? しますね、しました。ハイ、そういう、感じで……ありますのでぇ……」


(マスターをグイグイ押す感じなので、声を近い距離に)


「と、とにかく! 洗面所で身だしなみをどうぞ! そのあいだに朝食のご用意をしておきますから! あっほらスケジュールも押してますし、お急ぎください~!」


(バタン、と扉が閉まる音)


「ぜえ、ぜえ……し、心臓に悪い……ん? いえアンドロイドなんですから、CPUに悪い……でしょうかね?」


「……と、とにかく、朝ごはんを作りましょう、急がなくっちゃ……!」


(火を使った料理をする音)

(扉の開閉音)


「……あっ、マスターっ。朝の準備、お疲れ様でした!」


(ととと、と軽快に駆け寄る音。0日目より距離が近く聞こえるように)


「本日の朝食メニューは、ええと……ごはんと、さけの切り身の塩焼きと、たまご焼きと……あと、お味噌汁みそしるも作って、和食にしてみましたっ」


「ええと、洋食が悪いわけじゃないんですけど、最近ずっと続いてましたから……たまには気分を変えてみたほうがいいんじゃ、って……えっ?」


「そんな設定、してたっけ……ですか? ……あっ」


(慌ててしどろもどろになるアンドロイド)


「そっそそそ、それは……さっ、最近はアンドロイドだって学習AIが優秀ですから! 自動的に色々とできるようになって、ですねっ!?」


「う、いえその、ワタシ……アンドロイドなのに、勝手なことしちゃって、ごめんなさ……えっ?」


「あったかくて、おいしい……久しぶりな気がする、ですか?」


(嬉しそうに弾むような声で)


「ほ、ほんとですかぁ!? よかった~~~っ!」


「あっ、もちろんおかわりもあるので、お申し付けくださいね、マスターっ♪」



(時間経過。玄関で靴を履く音)


「マスター、お忘れ物はありませんか? そうですか、それならよかったですっ。……あの、それで、これを……」


(ごそごそ音)


「えっと、お昼に食べられるよう……朝食の準備と一緒に、お弁当を用意しました。簡単に食べられるよう、サンドイッチにしてありますので、お仕事の合間あいまに召し上がってくださいねっ」


「やっぱりお昼も、ちゃんと食べないと、です! ニンゲンは三食さんしょくきちんと栄養摂取したほうが、たくさん元気になると思いますから!」


「あっ、もうお時間ですね……お仕事、無理はしないでくださいね!」


(ガチャッと玄関を開く音)



「それでは、お気をつけて……いってらっしゃいませ、マスターっ♪」



(バタン、と玄関の扉が閉まる音。少しだけ間を置いて)


「……よ~し、ワタシがバグっているなんて、きっと全く気付かれてませんよねっ。バグってるぞ、とか言われませんでしたしっ、うんうんっ」


「それじゃ今日も……お仕事です」


(0日目の淡々と対比になるような、楽しそうな声色で)


「ミッション――スタ~~~ット♪」

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