第11話 「適材適所」のグループ分け大作戦
「適材適所」という言葉があらゆるところで使われている。新しい内閣が発足すると大臣ポストを振り分けるときの決まり文句のようにこの言葉は使われてきた。また、それ以外のいろいろな世界でもこの言葉をよく耳にする。それなのに、それがただの飾り言葉になっていることが多くてがっかりしてしまう。この言葉を使っていれば互いに納得するだろう、という決まり文句のようになっていてなんだかいやになってしまう言葉だ。だが、本当に能力や適性を把握していて、必要に応じた適材を適所に人的配置できるのであれば、それはとても有効で素晴らしい計画になるはずだ。
学級全員で活動をしているときには、力はあるけれども飽きやすい子が一番のお荷物になり、邪魔な存在になってしまうことがある。いったんやる気になったら素晴らしい力を発揮するのに、気持ちが乗らないときにはかえって邪魔にしかならない。そんな子はけっこう多い。
プロジェクトメンバーの考えた「適材適所大作戦」
その1「男の子はパソコンでつれ」
「何かさ、浩太とかさ、リーダーにしちゃえばいいんじゃない?」
という山本美幸の言葉が決め手になって、否定的なことでも周りを気にせず「自分だらけ」の言葉で話してしまう内山浩太をパソコン担当にすることにした。展開図を組み立てる際に一番わかりづらい部分をパソコンのソフトを使って見取ることになる。その担当だから、組み立てる前の現場監督のようにも考えられる。大事な役目だ。
その2「外が好きな子には外の仕事を」
「瑞希はさ、フリーにしちゃった方がいいよ」
すぐに他のクラスへ遊びに行ってしまう桜田瑞希は教室前廊下の装飾担当とした。他の学級と比較して良いものを作るように、とプロジェクトたちがおだててみたのだ。男子は廊下で作業したい人が多いからカッターの作業をメインに……。
その3「理由ははっきり隠さず伝える」
「それぞれのさ、守備範囲を決めてしまった方がいいと思うぞ」
プロジェクトメンバー達の人選と理由付けは、担任のそれよりも明確で容赦がない。そして、その理由を一切隠さずに伝えている。大人がいかにも大人らしくと思って、薄いベールに包むようにして、わかるような、わからないような言い方で婉曲に……それとなく伝えようとする。でも結局は真意が伝わらず、後々に大きな禍根を残してしまうことが多い。それとは全く違って、プロジェクトメンバーたちは端的でストレートな言い方をしていた。
「君は不器用だからこれの方が良いと思う」
「あなたは丁寧で細かいところがうまいけど、力がないからこの部分だけにして」
「きみはあの子達とうまくやれないから、こっちのグループでこの作業をして」
良くも悪くもこんな具合である。
彼らのこんな大体な仕切り方に対して私はこう言うしかなかった。
「最後はオレが責任を取るから! 君たちに任せた。」
そうカッコ良く言ってはみたものの、担任である自分の方がその大胆でずばりと的をつく説明にビビッてしまうほどだ。
きっと怒り出す奴がいるだろう。もめごとになりそうな雰囲気が……。そう思ったのは子供たちのことをよく知らずにいた担任の私だけだった。三年間も一緒に暮らしてきた彼らの反応は悪くなく、互いに心得済みというような雰囲気の中、作業分担が決定となった。大人の心配はしっかり的外れだったようだ。後になって担任の私のところに文句を言いに来たり、愚痴や恨み言を……なんてことは一切なく、作業はスタートすることになった。大人であり、教師としてのプロであるはずの私は、いつも何をあんなに悩んでいたのか。別の意味でまた悩んでしまうことになった。
とにかくプロジェクトの生徒達の活躍で、クラスの人間関係も中和されたようだ。うまくスタートを切ることが出来そうだ。後はどこでどういう新鮮なモチベーションの追加ができるかどうか……。実は、一つだけ隠し球があった。白石先生のプロジェクトの高校生たちからもらったメールに添付されていた「なんとか式ライフル」の展開図だ。男の子には興味深いもので、全長2000ミリ以上のライフルができあがるらしい。1メートル50センチもの段ボールを丸く筒にする作業はちょっと難しそうだった。
「これは、野球部とサッカー部とバスケットボール部のやんちゃな男の子三人を担当とすることにして、全部の部品を切り取り終わってからにしよう」
という案は山本美幸親分が絶対の自信を持って提案した。彼女ならきっとやんちゃな彼らを納得させてしまうのだろう。
そんな風に計画が盛り上がっていくうちにイメージはどんどん広がってしまい、切り取った段ボールも展示に使おうとか、ライフルがあるなら楯もつくろうとか、頭の部分だけ作ってかぶれるようにしよう、とか……。プロジェクト達は更に手を広げようとする。さすがにやりたがり達の集まりゆえの案だった。とても素晴らしいことなのだが、今でさえ作業日数が不安なのにますます困難にしてしまうかも知れない。
「大丈夫だよ先生、土日も連休もいっぱい休みあるから」
福地真奈美が「何の心配もないから安心して」と聞こえる言い方をした。確かにこの子にそう言われると大丈夫なような気になってしまう。きっと彼女たちが休みの日も学校に集まって作業をしてくれるだろう。でも、私だって休みの日はのんびりと一日過ごしたい気持ちが強くあるのだが、そんな私の生活のことなんか全く気にするつもりはないようだ。
結局段ボールを切り取った後は、そのままきれいに残して教室内に飾ることにした。楯は私がネット上に公開されていた展開図をダウンロードして、ライフルの大きさにふさわしいサイズに拡大して作ることにした。これも男の子用の分担になった。更にかぶれるようにする頭については、これまた白石先生プロジェクトの生徒達も同じことを考えていたようで、公開されている写真の中にガンダムの巨大頭がいくつも写っていた。それを参考にして、いただいてあった展開図の頭の部分だけを8倍に拡大して作ることにした。そのほかにも、ネットで公開されていたガンダムの頭部だけの展開図をダウンロードし、こちらの方は子供がちょうどかぶれるくらいの大きさなので、そのままの倍率で段ボールではなく白の写真紙の厚紙を使って打ち出すことにした。
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