第4話  ペパクラ「ガンダム」

 ネットサーフィンというかっこいい言葉には不似合いな自分だが、インターネットでいろいろと調べていく中で、ペーパークラフトのサイトから「NTガンダム」というガンダムの子供版? らしきものをいただき組み立ててみた。


B4版の用紙2枚に展開図が収まっていて、簡単にできそうな雰囲気があった。夏休みまであと何日もない。夕食後のテレビを止めてハサミとのりを使って格闘を始めた。2枚の画用紙に印刷された展開図。子どもの頃夢中になっていたプラモデルの部品のように丁寧に丁寧に輪郭線にそって切り離し、組み立てる。ところが、展開図はあっても設計図や組み立て図がない。それがこの手のペーパークラフトでは普通の状態だそうで、どれをどうやって貼り合わせればいいのかとんとわからない。完成図を何度も見ながら想像で作ってみる。


背面も側面も見えない部分が多くある。本物を知らない状態で作ろうとしているのが間違いなのだが、何とか最後まで作り上げてみる。だが、どうも完成図と一致しない。


ヘルメットの中はどうなっているのか。

足の裏側のつなぎ方は? 

背中に背負っているのはいったいなんだ? 

2枚しかない展開図を都合4回ダウンロードし、何とか普通の状態らしい「NTガンダム」が完成した……。

それにしてもこいつ……小さい。

15センチもない。

10センチ、いや12センチか。

そしてやたらに細かい。山折りも谷折りも面づくりも、細かい作業ばかりだ。

これではやはり面白くない。何とか大きくしたい。でもこれが大きくなっても……。


何かを詳しく知りたいとなったら、ネットで調べることが最近の習慣になってしまった。学校祭関係のアイディアも、ネットで調べることが増え、高校生対象の学校祭の工夫を集めたサイトを参考にしたことがある。そこには、巨大貼り絵や恐竜展などのほか、高校生らしい手の込んだ作品がいくつもあった。


このサイトを参考に、1年生の学級でモザイクアートを作成した。1センチ四方の8色の色紙を約60000枚使って「トトロの貼り絵」に挑戦した。縦320センチ横360センチのなかなか見事な「トトロ」を完成させ、当時1年生だった生徒達は満足感でいっぱいだった。今の学級にもその時の仲間が何人かいる。1センチの正方形60000枚を、指定された番号に沿って貼り合わせていくのはとても大変な作業だった。それでも、1週間あまりかけて夢中になって取り組んだ。全員がA4用紙一枚分に小さな色紙を貼っていく作業を担当した。それを持ち寄ってつなぎ合わせていくときのわくわく感が楽しかった。完成したときの喜びも大きかったが、このときは作業自体が興味深く、みんな割り当ての部分を一生懸命に貼り付けていた。


中学生になって初めて経験する学校祭で、今までに誰もやったことのない珍しい取り組みに挑戦しているという満足感や自負心があったのかもしれない。そしてそれ以上に、我々には単純に大きなものに対する驚きだとか、あこがれだとかの気持ちがあることに気づく取り組みだった。


そんなことを思い山しながら、「巨大アート」「ガンダム」などと検索を続けていくと、「巨大段ボールアート」という文字が目に入った。リンクをたどっていくと、まさに「ガンダムを巨大に、しかも段ボールで」作っている人がいたのだ。


ペーパークラフトのサイトにはメーカーによるものだけでなく、個人でオリジナルのペーパークラフトを考案し、作成している人がたくさん登録されていて、数多くの作品が公開されていた。日本だけに限らず、海外から出品している人も驚くほどたくさんいるのだ。その多くは、「ガンダム」のリアルなペーパークラフトである。それは、紙で作る人形などというレベルではない。「ガンプラ」と呼ばれるメーカー作のプラモデルに匹敵する素晴らしいものがたくさんあった。「3次元モデリング」だとか「ペパクラガンダム」だとかいう言葉をたどっていった時、「段ボールアート」の白石先生にたどり着いた。


東北にある高校の白石先生という方が生徒達と段ボールでガンダムを作っていることを知った。十年余りも続けているそうで、その作品の進化の様子も見ることができた。現在は480センチにもなるガンダムなどを段ボールだけで制作しているという。


「これだな。いや、これしかない」

そんな思いを私は妻に相談した。学校の活動を妻に相談したことなど今までないのだが、何せほんの少しだけでも彼女の方がガンダム世代に近いのだ。この段ボールアートが魅力あるものなのかどうか、今ひとつ自信が持てなかった。


「いいんじゃない」

という軽い返事の妻。

「30周年だし、子ども達より父さん母さんの方が喜ぶんじゃない。」

「あんたならどう、作ってみたいと思う」

「私は、作るの好きじゃないから」

なんとも複雑な気持ちながら、ありがたいお言葉に安心感も少しだけいただいて、プロジェクトメンバーへと伝えてみることにした。

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