第3話 第二部 ペーパークラフトの世界
1.ガンダム30周年
大きな期待をもとにプレゼンに参加した学校祭プロジェクトメンバーの6人は、「最後は公平にジャンケン
で」という「わけわかんねえ……」決定とともに涙に暮れた。
翌朝、怒りと失望を隠すことのできない彼らがクラスにプレゼンの結果を報告した。すでに人づてに結果を
知らされていた生徒が何人もいたので、発表を前にしてすでにクラスの雰囲気は暗かった。日頃は感情を露わ
にすることなど滅多にない山口が、担当の先生ともめてしまったことも知っていた生徒が多くいた。
静まりかえった朝の会。俯きがちな生徒が多かったが、目だけはしっかりと前を向いていた。
リーダーの山口が淡々と結果を話し始めた。クラス中に失意というより「やっぱり」というムードが色濃く
広がり始めた。自分の要求が通らないのは世の中の常で、自分たちの人生なんか誰かの手で決められてしまう
ものだ。そんな「諦観」とも言える雰囲気が教室を満たしていった。
山口をはじめとするプロジェクトメンバーたちの失意の度合いは大きかった。クラスのムードメーカー達は、
やる気の火付け役、導火線である。彼らがくすぶってしまっては、最後の学校祭がつまらない思い出のまま終
わってしまう。それは、これから自分たちの人生を切り拓く上での大きな障害になってしまうかもしれない。
中学校生活最後の学校祭なのだ。最後の最後に……、このままではいけない。学校での生活は毎日が大切な一
日であることには変わりがない。それでも、祭りは、祭りとしてしっかり盛り上げてやらなければならない。
一年間のうちの同じ一日の学校生活ではあるけれども、「特別な一日」でもあるのだ。なんとかしなければ……。
私は焦った。彼らは一番のやりたがりたちであるとともに、長い時間をかけて準備してきたことの価値を否
定されたような思いでいる。なんとかもう一度心を燃やすに値することを見つけてやらなければならない。彼
ら自身からはもう新しいものは出てこないに違いない。シナリオまで作り上げていたがために、彼らの落胆は
大きすぎるほど大きかったのだ。
失意の何日かが過ぎてしまった。が、そうしてばかりもいられない。プロジェクトメンバーに何か新たに意
欲をかき立てられるものを示さなければならない。期限はどんどん迫ってくる。生徒たちにとっては最後の学
校祭である。自分自身も担任として、この後何回も学校祭を経験できないだろうという思いも強い。なにより
生徒達のやる気やパワーを発揮できる何かを見つけなければなるまい。このままでは、やりたがりの面が強かっ
たからこそ頑張れていた彼らが、楽しい学校生活を送れるとは思えなかった。
慌ただしかった年度初めの準備から始まって、旅行的行事や定期テストや中体連と大きな取り組みが次々に
やって来る。毎年のことだが、どうしてもそんな過密な日程になりがちな一学期がやっと終われるめどが付い
た。いつもなら、夏休みを前にして、担任としてやっとリフレッシュできる、開放感にも似た思いに包まれる
この時期に、生徒達の暗い表情が重たくのしかかってきていた。
一日また一日と、三年生の限られた時間は待ったなしで過ぎていく。いくつかの本をあたり、他校の仲間の
話を聞いてみた。いろいろな選択肢もあるにはあった。が、それでも今ひとつ何か惹かれるものがないまま何
日かが過ぎた。
そんなある日の夕食時、妻と見ていたテレビのコマーシャルが目に止まった。
「ガンダム30周年メモリアル」
「Gundam 30th Anniversary」
「お台場に等身大ガンダムが登場」
何かが頭の中で小さくはじけたような気がした。
「18メートルだって!」
そういう妻の言葉に、以外と小さいなと感じながらも、等身大という言葉に引っかかった。等身大は「実物と同じ大きさの」という意味だろうが、なんとなく「でかいもの」という感覚にとらわれ、「でかいもの……」が頭から離れなくなった。
ガンダムは妻も私もそんなに詳しいわけでなく、私の年代ではほとんどマニアはいない。妻の方がちょっとだけガンダム世代に近く「シャー」だの「ザク」だのと私のよく知らない言葉を使っている。私にはその区別がつかない。ただ、「大きいもの」「等身大」という言葉とガンダムが結びついて、「ちょっと調べてみるか」という気分になっていった。
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