明菜はデートに誘う

 受験勉強に追われる姉の代わりに再びコンビニバイトに来た。すると先日面接に来ていた子と一緒だった。どうやらちゃんと受かったらしい。店長さんは合格にすると言っていたが、こうしてちゃんと働いているところを見るとホッとする。良かった良かった。俺はそう思いながら彼女に挨拶をした。


「おはようございます」

「おはよう……ございます」

「あの……お名前お伺いしても……?」

「私は……山手川明菜、です。よろしく……お願いします」


 そうたどたどしく言う彼女に俺は苦笑いをして言った。


「無理して敬語使わなくていいですよ。多分、俺の方が年下なので」

「……そう。分かった。ありがとう」


 彼女――山手川明菜さんは俺にそう感謝を伝えて、それからタメ口になった。うん、こっちの方が喋りやすそうだ。しかし、明菜か。またゲーム友達と同じ名前だが、つかさのようにこっちも本人だったりしないよな……? そう思ったが、そんな偶然が何度も重なるなんてあり得ないと思い直し俺はその考えを頭から追い払った。


 それからお金を数えている店長にも挨拶をし、パソコンの出勤ボタンを押して、バイトを開始する。この店は住宅街の一角の小さなコンビニなのにヤケに忙しく、ひっきりなしに女学生から主婦、お婆ちゃんまでがやってくる。フライヤーを揚げ、レジを打ち、合間を縫って品出しをする。そんなことをしているとあっという間に時間が経ち、夜遅くになっていた。店長が帰り、俺と山手川さんの二人になった。お客さんも減って、ようやっと落ち着ける感じになった。


「あのぉ……」


 すると山手川さんがおずおずと話しかけてきた。


「どうしましたか?」

「あっ、いや。特に大したことではないんだけど、鈴木……さんってゲームに興味あったりする?」

「呼びにくかったら祐二で良いですよ」

「……ありがとう」

「で、ゲームですか。もちろん興味あるというか、メチャクチャ好きですね。毎晩友人たちと楽しくゲームをしています」

「そう……。ねえ、ゲームフェスティバルには興味ない?」

「もちろん興味ありますよ。新作のゲームとかを体験できたり、そこでしか出来ないゲームもあったりしますからね」


 ゲームフェスティバル。それは年一で行われる国内最大のゲームイベントだ。様々なゲーム会社が参加し、新作のゲームの体験版を公開したり、対戦出来るブースがあったり、そこでしか体験できないVRゲームとかもあったりする。もちろん興味はあるが、チケットの倍率が高く、毎年抽選が行われて、俺はもちろん毎年落ちていた。


「ゲーム好きなら、ゲーフェスのチケット一枚余ってるんだけど、一緒に行かない?」

「えっ!? 良いんですか!?」


 山手川さんの言葉に思わず前のめりでそう言ってしまう。ゲーフェスに参加できるならもちろんしたい。だが……


「そんな貴重なチケット、良いんですか?」

「もちろん。私、友人いないし」

「そんな悲しいこと言わないでください。……でも、それだったらちょっと参加してみたいです!」


 やったぁ! 思わず両手を上げて喜びそうになった。しかし今はバイト中。抑えないと。


「良かった。それじゃあ来週の週末だから」

「ありがとうございます! 多分、SNSの交換をした方が良いですよね?」

「うん。しよう」


 そうして俺は山手川さんとRINEの交換をした。ちなみにいつも使っているボイチャ用のSNSはRASCORDというボイチャに特化したゲーマー御用達のSNSだ。RINEはどちからといえばプライベート用のSNSで、こっちは国から年齢制限はかけられていない。


「楽しみ」

「俺も楽しみです!」


 いやぁ、ゲーフェスに参加できる日がくるなんてなぁ。なんか最近ツイてる気がする。ようやく俺にも運が回ってきたか? そんなことを思いながらほくほく顔でその後のバイトも頑張れたのだった。



   ***



 バイトが終わり、帰り道、明菜は一人息をついた。


「良かった……。ちゃんと誘えた」


 まだ心臓がバクバク言っている。祐二……もといユウをデートに誘うのは、とても緊張した。しかしとても喜んでいる祐二の様子を見て、誘って良かったと心から思った。


「喜んでる祐二、可愛かった……」


 その時の様子を思い出し、明菜は思わず頬が緩む。


 もちろん、ゲーフェスのチケットは余っていたわけではなかった。このときのために頑張って二枚ゲットしておいたのだ。運良く抽選に受かって良かったと今でも思う。最悪の場合、高値で転売ヤーから買うことも考慮していた。ゲーフェスのチケットはネットオークションに高値で転売されることも多かった。それに、ゲーフェスなら絶対にユウも食いつくと思っていたのだ。ゲーム好きだし、以前一度も行ったことないけど、一回は行ってみたいと言っていたのを明菜は覚えていた。


「ふふふっ、これでみんなから一歩リード。ここから攻め込んでく」


 そう口にして、自分の決意を固める明菜。あの三人は友達だけど、恋のライバルでもある。もちろん、負けるつもりは毛頭なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

次の更新予定

毎日 18:10 予定は変更される可能性があります

貞操逆転世界では男性ゲーマーは貴重らしい AteRa @Ate_Ra

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ