祐二は無自覚に照れさせる
「そういやさー」
次の日。休日だったので俺は朝っぱらからゲームをしていた。今起きているのが明菜だけだったから、明菜を誘ってファイシスをしていた。俺がダッグのコンボを決めながらそう言うと、明菜は即死コンボをまともに食らって少し不機嫌になりながら言葉を返してきた。
「どうしたの?」
「いや、昨日姉の代わりにコンビニバイトをしていたんだけどさ」
「…………えっ?」
「昨日面接に来てた子がちょっとビックリするくらい可愛らしい子だったんだよね」
「――っっっっっっっ!!!」
俺は何気ない口調でそう言う。いやね、俺は基本ゲームにしか興味ないけど、流石に芸能人レベルの美少女が来たとなると、ちょっと他人に共有したくなるくらいには他人に対する興味はある。まあ芸能人レベルでしかそういう話をしない時点で察してほしいところだが。昨日面接に来た子はそれくらい可愛かったってことだ。
しかし……俺の言葉に明菜は何故か言葉にならない言葉を発したけど、どうしたのだろうか? 俺は不思議に思って明菜に尋ねる。
「ん? どうかしたのか?」
「いっ、いや! 何でも、ないっ! 何でも!」
マジでどうしたんだろう? 何でもないと言いながら、メチャクチャ声が裏返ってるし。
「そっ、それで、そのバイトの子ってどうだった?」
「どうだったって……なかなか曖昧な質問だな」
「じゃ、じゃあ、す、す、す、好きになったりとか、そういうのはあったり……?」
好きになりそうか、か。変な質問だな。そう思いつつも、俺は考えてみることにする。あの子とデートやら恋人っぽいことをしている自分を想像してみる。う~ん……、意外と有りかも? 俺がゲームするのを邪魔してこなさそうだし、というか一緒にゲームをやるのも楽しそうだ。
見た目からの偏見でしかないが、一緒にゲームを楽しめそうな感じだったからな。やっぱり好きになるかって言われたら、俺とってはそこが一番大きいだろう。
「そうだなぁ……時と場合によっては好きになってもおかしくないな。見た目はかなり好みだし、まだ性格とかはよく分からないけど、ちょっと話してみた感じだと、一緒にゲームをするのも楽しそうな気がする。まず大前提として、俺は一緒にゲームを楽しめる相手がいいからな」
「そっ、そっ、そうなんだ……。そっか、それなら私でもやっぱり……」
ブツブツと小さな声で呟く明菜。声が小さすぎてマイクがほぼ声を拾っていない。何言っているのかはよく分からなかった。しかしやっぱり女の子って恋愛話が好きなんだな。俺はそんなふうに感心する。それにしても……なんであんな質問をいきなりしてきたんだ……? ——ってそうか、俺が好きになったりしたらみんなとゲームの時間が減っちゃうんじゃないかって考えたのかもしれない。俺はそう思い、こう言い直す。
「あっ、でも安心してくれ。俺は恋愛はする気ないから」
「…………えっ?」
「やっぱり明菜たちとゲームしている方が何百倍も楽しいからな。それだけで俺は十分だ」
「たっ、たっ、楽しい……。楽しんでくれてるの……?」
「もちろん。当たり前だろ、楽しくなかったら毎日一緒にゲームなんてしないって」
あれ、完全に明菜が黙ってしまった。あっ、またファイシスの即死コンボが決まった。なんかプレイにも集中できてなさそうな感じだった。俺は調子が悪いのかなと思って声を掛けた。
「ほんと、どうしたんだ? 体調でも悪いか?」
「……いや、そんなことない」
「でもプレイにも集中できてなさそうだしな。……いったん休憩するか。どうせ昼からまたみんなでゲームするだろ」
「……うん、そうする。ごめん」
「謝んなって。体調が悪いことなんて誰にでもあるんだしさ」
そうして俺たちはいったん休憩を取ることにした。俺はその後、一人でオンライン対戦に潜り、何故か死ぬほど調子が良くてぐんぐんとレートが上がっていくのだった。
***
「――っっっ!! あああ〜〜〜〜っ!」
通話を終え、明菜は枕に顔を埋め声にならない声を出した。やっぱりあの時会った美少年は祐二で合ってたんだ。そして祐二が自分のことを美少女だと言ってくれた。そのことがグルグルと頭を巡っていく。それに、好きになってもおかしくないって! 好きになってもおかしくないって言った! と脳内の自分が盆踊りを始めていた。
しかも! ゲームを楽しめる相手がいいと言っておきながら、私たちとゲームするのも楽しいって言ってくれた。これってもう、実質好きってことだよね、結婚してもいいってことだよね、と完全に舞い上がっている状態だった。
「でも……おそらくユウはあれが私だって気がついていないし……恋愛も今はする気ないって……」
まあ、明菜だって気がついていないおかげで、彼の先ほどの言葉が本音だというのが分かるのだが……ここから先、どうやって関係性を深めていけばいいのか悩ましいところだった。今から、さっきの話の子は私でしたと明かしても、逆に引かれてしまう可能性がある。なぜなら、勢いで好きになったりするかという質問をしてしまったわけで、それを聞いたのが本人だったと知られれば、恥ずかしいどころの話じゃない。それに意識していることが完全にバレてしまう。それだけは避けなければならない。
「どうしよう……どうやってユウに振り向いてもらおう……」
一番難しい問題だ。先ほどの話の相手が自分だと明かさずに意識してもらうにはどうすればいいか……。そこで明菜は一つ妙案を思いついた。リアルでも彼をゲーセンとかに誘って一緒にゲームをすれば、デートみたいになり、異性として意識させることが出来るのではないか、と。彼はゲームをするのが生きがいみたいなところがある。それにさっきゲームを一緒に楽しめる相手がいいと言っていた。だったら、こっちのネット上でも一緒にゲームを楽しみつつ、リアルの方でも一緒にゲームが出来れば、徐々に外堀を埋めていくことが出来るのではないか、と考えた訳だ。
「これだ、これしかない」
どうやら彼の姉は最近ずっと受験勉強で忙しいらしい。彼がバイトの代理をする機会も多くなるだろう。明菜はまたユウ……もとい祐二に会うために、早速店長にメールして、バイトのシフトを増やしてもらえるように相談するのだった。
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